③ 信じていた世界の崩落
「いや、あんた騙されてるって!」
「そんなことないよー。」
後日、未来は、教室で女友達に星司から聞いた話をすることになった。
内容を聞いた友達は空かさず否定。至極真っ当な反応と言えよう。
「どう考えてもあんな弱男がそんな男気、発揮する訳ないじゃん!」
「決めつけるのは良くないよー。加古君、真剣だったし。」
「真剣に演技しただけでしょ!? その元カノ?の名前も言ってなかったんだよね?」
「うん。『死者の名前は軽々しく聞いてはならない…。穢れが移る…。』って、生者のこと、気遣ってくれたの。」
「大嘘確定じゃーん!?」
「…、(はぁ…。美香ちゃんの方から訊いてきたのに、否定ばっかり…。)」小さく溜め息…
未来とて、脳内お花畑の幼児ではない。常識と良識を持つ女子校生である。
星司の話に怪しい点が多いことは理解している。
だが、それは確かめ様がない話と言うだけであり、それだけの理由で即座に否定されるのは、違うと思うのだ。
今目の前に居る友達も、自身のことを思って口を出しているのも分かる。
分かるが、否定する根拠が「有り得ない」だけなのはおかしくないだろうか?
彼女とは仲が良いと思う。
しかし、同時に。
彼女もまた「小さい頃にUFOを見た」と告白した未来を笑った、1人だ。「オカルト研究会なんて陰キャの集まり、止めときなよ。」と言われた時のことは、喉に刺さった魚の小骨の様に、煩い記憶として頭の隅に残っている。
(どうして、信じてくれないんだろ…。)
未来はその日、ずっと憂鬱な気持ちで授業を受けたのだった。
──────────
「おや? 加古氏ではありませぬか。」
「あ、先輩、こんにちは…。」
放課後、とある本屋にて、星司は部活の先輩と遭遇した。
未来に会うのは気不味かったので、今日は部室に行くのをやめて天文の本でもぶらぶらと漁るつもりだったのだが。
「あ、今月のオカルト雑誌ですか?」
「いやいや。参考書でござるよ。受験生はツラいと言うやつですな…。」
「あー、後半年ですもんね。」
「6ヵ月ももう無いのござる…。」
悲痛な声を漏らした先輩は、そのまま悲しげな目を後輩に向ける。
「我らがオカルト研究会は加古氏に託しましたぞ…。是非、宇宙人と接触し世界に名を轟かせてくだされ。」
「いや、世界って…。大げさな。そんなの発表できる訳ないじゃないですか。」
「何を仰る。『勇者』たる加古氏にとっては造作もないことでござろう?」
「ゆ、勇者…?」
ニマニマと笑いはじめた先輩がウザい。だが、その指摘には覚えがない。
自分は科学系の妄想はすれど、空想系の設定は練ったことは無いはずだが…?
「なんでしたかな? 『視る者』w でしたかな?ww あれを今井氏の前で披露する加古氏は『勇者(笑)』でござったよwww」ぶふふぅーっ!
「なっ──!?」
先輩のからかいの言葉で、星司の頭は瞬間的に沸騰する。
「あ、あんなのはっ! 単なる嘘に決まってるじゃないですかっ!」
「またまた~、今井氏の気を引く為だけにあんな嘘がポンポン出てくる訳無いではありませぬか~。
普段からどっぷり浸かっているのでござろう? 『厨二沼』に。」
「ち、ちが、違いますっっ!!」
星司の大声に、少ないとは言え周囲の客の目が2人に向けられた。
「加古氏w 店内はお静かにww 必死過ぎですぞwww」
「あっ、ごめんなさ──だ、誰のせいでっ、こんなっ…!」
「『勇者(笑)』加古氏のせいですぞぉww」
「いつまでその話を当て擦ってるんですかっ。」
「ほら、その首のチェーンも『勇者(笑)』の装備品なのでござろう?ww 障壁? バリアが出るのでござるか?w」
「これは露店が買った中古の指輪です! 千円、もしないボロいガラクタですよ…!」
「なるほど『前世(笑)』からの『運命』の出会いを果たしたと──」
「だから──!!」
「加古、君──?」
「え──?」
今井未来が、店内に居た。
衝撃を受けた顔で、大きく見開かれた目を星司に向けている。
なんで本屋に──あ、オカルト雑誌──表紙に「UFO特集号」の文字──、
「あ──、わ──っ──!」ダッ…!
堪らず星司はその場から逃走した。
未来も先輩も他の客も全て無視して、全速力で夕焼けの町に飛び込んでいく。
後には、オロオロするばかりのモブ先輩と、雑誌を手にしたまま呆然と立ち尽くす少女が残された。