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② 2人の日常と無意味な嘘

「ふわぁ~~………。」

「…、眠そうだね、加古君。」


 放課後の部室に、気の抜けた欠伸(あくび)が響く。


 加古星司(カコ セイジ)今井未来(イマイ ミク)は、2人きりの部屋の中で部活動に勤しんでいた。


 活動とは言っても、今期の天体現象をまとめた解説図表を再確認したり、日本全国のUFO目撃談の資料を読み漁ったりと言った、地味な内容ではあるが。

 これでも真面目で熱心な2人は、「オカルト研究会(天文同好会を兼ねる)」の期待のエースだ。可愛い女の子の後輩が出来たことに浮き足立ち部室に来る頻度が激増した、(なか)ば幽霊部員だった先輩達とは、()ける情熱が違う。



 まあ、その情熱も眠気と言う本能には勝てないのであった。



「あ、いや、ごめん…。」

「ううん、こっちこそごめん。私の塾の度に夜更(よふ)かしさせちゃってるもんね。」

「あ、いや、これは(ちが)くて──そう! あの後寝てる訳にはいかない、じ、事情が、できて──。」

「そっか…。

(昨日言ってた『ウォッチャー』ってやつ、かな…。)」


 (いな)。宇宙開発の歴史とオカルト陰謀論を結びつけたサイトページをだらだら眺めていた(ウォッチしていた)だけである。N○SA(ナ○)万歳。



「先輩達、まだ誰も来てないし、今日はもう切り上げて帰っちゃおうか?」

「い、いや、UFO捜索は夏が本番!(先輩調べ) 1日たりとも無駄にできない──できぬのだっ!」

「なるほど! そうだね! その通りだよ。」


 しかし、その先輩達は今日は来れない。最近、部活動に(いそ)しみ過ぎて成績が危うく、学業に支障が出ている為である。


 そんなこととは知らぬ2人は、先輩達の活動記録を読み返しつつ考察を交わしていく。



「全然来ない、な。先輩達。今日は2人の(この)ままかな…?」ふわぁふ…

「なら、少し寝る? 10分くらいでも違うよ? 先輩達が来たら起こすし。」

「そう、したいところだが…。 (せっかく今井さんと2人っきりなのに寝ちゃうなんて勿体ない…! でも、眠気が…!)」


 星司が、体を反らしながら頭を()きむしる。


 下心と眠気と言う2つの欲求(あくま)がその体内で暴れていた。

 ちなみに、理性(てんし)は「今井さんに変なことをしてはなりません…。」と、どさくさ紛れに手に触れようとする肉体を抑制(セーブ)することに全力を注いでいた。


 そんなバカな脳内会議で注意力が散漫している星司の首元から、(チェーン)が滑り落ちる。



「それ、指輪?」

「?」

「いつも掛けてるチェーンのペンダント。指輪が付いてたんだね。」

「!? あ!?」

「凄く古い物っぽいね? お気に入りなの?」


 首元から垂れたチェーンには、小汚ない「指輪」が通っていた。


 そう、これは星司少年が、その辺の露店で買ったシルバーリングである…!

 デザインを気に入って1200円も払って買ったのに、後日ネットで同じ物を398円で発見し絶望した(いわ)く付き(良くある自爆)の逸品(ガラクタ)なのだ…!


 元を取る為に普段使いしてやる…! 使い倒してやる…! これにはそれだけの価値が存在する…!

 と、暴論じみた自己暗示を掛けて身に付けた物。


 屈強な格闘家ですら一撃で闘技場(リング)に沈む鳩尾突き(ボディブロー)に等しき、羞恥心の塊。


 そんな由来など恥ずかしくて言える訳がない…!

 だが、現物を見られた上に真っ直ぐ質問されては、無視する訳にもいかない…!!



「こ、これは…!」しどろもどろ…

「うん。」

「これ、は…、」曇る表情…


「…、あ、聞いちゃいけないやつだった…?」

「い、いや──(そうか! 聞きづらい話にすれば良いんだ!?)」


 眠い頭に天啓(てんけい)を受けた星司少年は、更なる羞恥(うそ)を重ねにかかる。



「──死んだ人間の、持ち物、だったんだ…。」

「あ…。そっか…。

 おじいちゃんとか、おばあちゃん、の…。」

「!? (ま、不味い…!)」


 焦る厨二病患者。

 会う頻度は多くはないものの、星司の家系は祖父母4人が全員生きていた。交流が全くない訳ではない為、嘘をついてもすぐバレる可能性が有る。



「こ、これは、その…、死んだ──『彼女』っ! の、持ち物でっ!」


「え──。」


「あ、いや、彼女って言ってもデ、デートすらしたこと、なくて…。」

「そ…そう…、なの??」彼女なのに…?

「病気──そう! 病気、で、な…。不治(ふじ)(やまい)…、治療法のない難病、に(おか)されていて…。」

「…、それで、寝たきりだったとか…?」

「ああ、その通りだ──。(いや、どの通りだー!?)」


 後に戻れぬ敗残兵、ここに散る…。


 現実には死ぬ(散る)ことも口を(つぐ)むこともできず、星司は持ち前の妄想力をふんだんに活用し、いつか見たドラマの内容を拝借しつつ、居もしない架空の少女を作りあげていった…。


 “ドツボに()まる”と言うやつである。



「──それで、その彼女さんの指輪を、譲り受けたんだ…。」驚愕…

「そんなところだ…。

 だから、彼女と言っても正式な付き合いとかじゃなく──」

「そんなことないよ! その人には加古君が大切だったんだよ!」

「い、いや!? 病室に訪ねてくる年の近い男が僕だったってだけで、『おままごと』みたいな──」

「そう言う風に言っちゃダメ! 加古君だってその指輪、ずっと肌身離さず持ってるくらいだし。とっても──とっても大切な思い出だったはずだよ!」

「いや!? そんなことは──!? (なんでそんなに真剣なのー!? 今井さん!?)」


 星司(きみ)が、不誠実なだけである。


 それはそれとして、未来(ミク)も少々、人が良すぎであるが…。



 こうして、特大の誤解を与えたまま、その日の活動は終了したのであった。


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