何ができるんだろう?
宙に浮くような感覚に襲われる。視界が光で埋め尽くされ、様々な色の光が僕の後ろへと駆け抜けていく。幻想的な光景に見とれていると、ひときわ輝く白い光に引き込まれていった。
……。
目を開け、周りを見渡せば木、木、木。上を見上げれば葉で覆いつくされ、下を見下ろせば木の根がそこかしこから顔を覗かせている。
どこだここはーーーーーー!?
転移先の世界がランダムとは聞いていたけど、実際に出てくる場所はせめて異世界って分かる場所にしてほしかった。人っ子一人いなさそうな森に放り込むことはないじゃないか。日本でも山に行けばあるわこんな景色。というか本当に異世界にきたんだろうか?
「ケェェェーーー!!!」 ビュゥーーーーーー!!
……日本では聞いたことのない鳴き声と共に風を切る音が聞こえた。鳴き声の主は遠くへ飛んで行ったようだが襲われたらひとたまりもなさそうな雰囲気を感じる。
本当に異世界に来たようだ。とりあえず、観察できる生き物を探しながら森を抜けよう。
そういえば、今の僕は魂だけらしいがどんなことができるんだろう?体は透けてないが壁を通り抜けたりできるんだろうか?少し調べてみよう。
とりあえず目の前の木を触ってみる。ザラザラとした感触が伝わってくる。ということは触覚はあるということだ。今見えているのだから視覚はあるし、さっき鳥と思われる生き物の鳴き声が聞こえたから聴覚もある。森の濃い緑の匂いを感じるので嗅覚もある。味覚はどうだろう?
ちょうどよく目の前の木に赤い果実が実っているのでもいでみる……あれ?びくともしない。それどころか果実が実っている枝がしなる気配も無い。試しにぶら下がってみる。枝は微動だにしない。ふと目に入った落ち葉を持ち上げようとする。これまた動かない。
どうやら、僕は物を動かすということができないようだ。魂だけで肉体が無いからだろうか?
とりあえず味覚の確認のため枝についた果実を直接かじってみる。
……硬い。そもそも傷すら付かない。これは動かないと同じで肉体が無いからか?仕方ないので舐めてみる。ほんのり甘く酸味も感じる。皮しか舐めれないからほんのりなのは仕方ないだろう。とにかく味覚もあることが分かった。
他にもいろいろやってみた結果。
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・五感はある
・物を触ることはできるが動かすことはできない
・小石を持ち上げることも葉や枝を折ることもできない
・物を通り抜けることができる
※念じたらできた。通り抜けてる時の視界は真っ暗。
・宙に浮くことができる
※すごく遅い。歩いたほうが移動速度は速い。
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とりあえず今分かったことはこんな感じだ。木を触りながら通り抜けないかなーなんて考えていたら、そのまま木を突き抜け地面に沈み込んだのにはびびった。パニックになってとにかく起き上がろうとしたら浮き上がったことに更にびびった。自分のことが分からなくて怖い。あの残念見習い天使にもっといろいろ聞いておくべきだった。
だが、収穫は多い。なにより通り抜け、いわゆる透過と宙に浮くという生きていた時にはできないことができる。
普通は入ることのできない場所に誰にも気付かれずに入ることができる。……男の夢を叶えることができるぞーー!
まぁ実際にするかどうかは置いといて、とにかく今は観察する生物を探そう。
草をかき分けることはできないので透過しながら進んでいく。視界が真っ暗になるので大きい木や岩はできれば透過したくない。どれくらい進んでいるのか分からないので、透過するものが大きいといつ抜けるのか分からなくて不安になる。
そうして探索していると、異世界にきて初めての生き物を発見した。
鳥と思われるものは鳴き声だけで見てないので初めての生き物にはカウントしません。
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