見習い天使
その日も何気ない一日になるはずだった。
仕事が終わり、会社を出て、夕飯を買いにスーパーへ寄り、晩酌のことを考えながら自宅への帰路を歩む。横断歩道を渡りもうすぐ我が家というところで、僕は信号を無視し突っ込んできたトラックに跳ねられた。
…………。
ここはどこだろう。
目覚めると全てが白で埋め尽くされた部屋に僕はいた。
白い壁に白い調度品。柱には神話をイメージしたかのような見事な彫刻がなされ荘厳な雰囲気を醸し出している。
そして目の前には周囲と同じように真っ白な少女がいる。
透き通るかのような白い肌に白い髪。純白のワンピースを身に纏い、その背には人間にはないはずの羽を背負っている。そしてその瞳は碧く宝石のように美しい。
ここがあの世なのだろうか。トラックに跳ねられ死んでしまった自分にお迎えがきたのだろうか。
「どうもこんにちわ!いきなりで悪いんだけどあなたに私の宿題を手伝ってほしいの!」
……聞き間違いか?聞き間違いであってほしい。この世のものとは思えない美少女からすごく残念な言葉が聞こえてきた。しかも声音からして夏休み最終日くらいには切羽詰まっている感じのやつだ。
「何が残念よ!ちょっと忘れてただけですーー!」
それを残念と言わずなんというのだろう。見た目美少女なだけに非常に残念である。……今心を読まれなかったか?
「ふっふーん!見習いだけどこれでも天使だもの。魂だけの存在であるあなたの心を読むなんて朝飯前よ!そんなことより私の宿題手伝ってくれない!?」
もし断ったら?
「あなたの来世は虫でいいかしら?」
……何をすればよろしいでしょうか。
「ふふっ。ありがとう♪私の名前はアル。見習い天使よ。立派な天使になるため修行中なの。そのための課題としていろんな異世界に行ってそこに住む人々や生き物を観察して記録するというのがあるの。けど他の課題もあるからそれをあなたに任せたいのよ」
へー、異世界って本当にあるんですね。けどそんな大事そうなこと僕に任せていいんですか?
「あなたって私と違って異世界の知識がないから普通とは違った視点でみてくれそうじゃない。あと課題が終わらなくてどうしようか悩んでたところにあなたがふよふよ漂ってたから丁度よかったのよ」
そんな理由で僕が選ばれたんですか。けど知識が無いって危なくないですか?
「大丈夫よ。そもそも死んでるから命の危険はないわ。あなた魂だけだからで私のような天使でもなければ基本的にその存在を認知できないし干渉することもできないしね。」
なるほど。どうやって異世界に行くんですか?
「私が使うはずだった転移用のアイテムを渡すわ。はいこれ」
見た目は本ですね。皮で装丁されてベルトも付いてる。けっこうしっかりした作りですね。
「それは学校で支給された課題をする上で必要な能力が付与されてるアイテムなの。転移すると念じたら別世界に転移できるけど、その世界で何か一つ以上記録しないと転移できないようになってるわ。あと転移先の世界はランダムよ。それと持っているだけで相手の話す言葉が分かるようになるわ。動物とかは無理だけど」
転移兼翻訳のアイテムで記録としての役目もあるということですか。すごいですね。
「しばらくしたら様子見に行くから記録おねがいね!」
分かりました。
「とりあえず最初の転移をするために何か書いてくれる?あなたの世界の動物とかでいいわ」
そうですねー。なにを書きましょう?
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見習い天使 アル
生態
・立派な天使を目指す見習い天使
・白髪碧眼の残念美少女
・落ち着いているような見た目だが実際は騒がしい
・宿題に追われている様子
・相手が思い通りにならないと来世を虫にしようとしてくる
※天使というのは人を導いたり良き行いをするものと思っていたが、宿題を見ず知らずの他人にやってもらおうとする様子からろくでもない人物っぽい。立派な天使になると言っているが堕天使になるのでは?
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「あんたなんてこと書いてるのよ!」
あはは!それでは行ってきます!転移!
初めまして。ねこかぶりと申します。初めての作品です。楽しんでいただければ幸いです。