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魔法絵師マリカの不思議なアトリエ  作者: O.T.I
空と海の青《アズーロ》

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水天藍玉



「ふぅ……こんなところかしら」


 夕方から始めた古文書の解読は結局、夕食を挟んで深夜にまで及んだ。

 覚えていない単語が多くて思ってたよりも大変だったわ。


 そして解読した結果、『扉』に関していくつかの事が分かった。

 その内容は……


=======================

<創世の書 第十章 第三節 『扉』>



 ―――では『扉』について記そう。


 門の扉、屋敷の扉、窓の扉、倉庫の扉……何でも良い。

 扉とはつまり、隔たれた空間と空間の境界にあり、自在に双方を繋いだり閉ざしたりするものだ。

 遠く離れた場所を瞬時に行き来する、あるいは異なる世界同士の往来を可能とする『扉』。

 もしそれを魔法によって実現しようもした場合、特定の星の配置、莫大な魔力、複雑極まる魔法術式、数々の希少な魔法触媒……それらを必要とする超大規模な魔法になるだろう。

 故に、おいそれと何度も使えるような代物(しろもの)ではない。


 しかし魔法絵の技法ならば、それらの問題のいくつかは解決することが可能だ。

 無論、魔法絵を描く絵師の感性や技量は極めて高度なものが要求されるのは言うまでもない。



 ―――中略



 空間と空間を繋ぐ手順の概要はこうだ。

 まず、繋げたい二つの空間を捕捉・認識し、その境界を明らかにする。

 しかる後、その境界を「曖昧」にし、「穴」を穿ち、そこに『扉』を建てるのだ。


 境界を曖昧にするためには、幾つかの特別な『色』が必要となる。

 そのうちの一つは青。

 どこまでも深い海、どこまでも高い空……それらの境界が溶け合って「曖昧」になるような青だ。


 その青を生み出すために必要となるのが、『水天藍玉アクアマリーナ・デル・シエロ』と呼ばれる石である。

 その希少な石を手に入れたならば、それを細かい粉末状になるまで砕き…………



=======================


 このあとも絵の具にするための詳細な手順が記されているが、今回借りた資料の内容はそこまでだった。

 残念ながら『扉』を描くための全てが明らかになったわけではない。

 だけど、それは予想の範囲内だ。

 これまでの事を思えば、むしろ大きな進展があったと言えるでしょう。



 さて、ここに記されている『水天藍玉』という石だが……思い当たる物がある。

 というか、今もそのまま同じ名前で知られている鉱物だ。

 書に記されてる通り、実際に希少な石なのは間違いないけど、価値はそこまで高いものではない。

 というのも……その石は、光の加減によって深海の青から蒼穹の青まで多彩な表情を見せる美しい石なのだが、空気に触れると直ぐに濁ってその辺に転がってる普通の石ころみたいになってしまうと言う。

 だから宝石としての価値はほとんど無いに等しいし、魔法触媒としての用途も特に無かったと思うけど……まさか魔法絵の絵の具の材料になるとは思ってもみなかった。

 実は王都近郊に産出する場所もあるのだけど、そんな理由だから採取する人もいないはずだ。


「……確か、藍銅鉱の産出場所も近かったわね」


 ちょうど在庫が尽きそうな素材の採取も考えてたところだし、ついでに探してみましょうか。

 だったら、さっそく明日から……と、私が予定を考えようとしたとき。


「ニャー」


 解読中はソファの上で丸まって寝ていたミャーコが足元にすり寄ってきた。

 どうやら今は甘えっ子モードのようだ。

 抱き上げて膝の上に乗せてあげると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら首筋をこすり当ててくる。


「ミャーコ、明日から一緒にお出かけしましょうね」


「な〜ご!」


 今のはたぶん『はいですニャ!』と言ったのかしらね。


 そう言えば……最後に採取に出たのはこの子を『描く』前だったから、一緒に遠出するのは初めてのことね。

 我が子(・・・)にはもっと色んな経験をさせてあげたい……そう思いながらミャーコの頭を撫でていると、ふと前世の事を思い出した。


「あの子たち、元気にしてるかな……」


 三毛猫のミケランジェロと、黒猫のクロード。

 私が前世で飼っていた猫ちゃんたち。

 まだ産まれたての子猫の時に段ボールに入れられて捨てられていたのを私が拾ったんだ。

 今どきそんな飼い主がいるなんて……と憤った覚えがあるけど、もともと猫好きだった私は引き取って育てることに全く抵抗はなかったわ。


 もしかしたら……あれから何十年も経って、二匹ともとっくに寿命で居なくなってるかもしれない。

 妹の美也子だって、どうなってるか……

 前世の世界への扉を開くのが私の願いではあるけど、そう思うと不安が押し寄せてくる。



「ニャ〜」


 私の気持ちを察したのか、ミャーコが私の頬をぺろりと舐めてくれた。


「大丈夫よ、今も私は一人じゃないから。あなたがいて、メイ母さんがいて、新しい友達も出来たし」


 でも、美也子は……私がいなくなった悲しみを癒してくれる人が彼女にもいると良いのだけど……

 そう思えばこそ。

 不安はあれども、私は私の願いを叶えるための歩みを止めるわけにはいかないんだ。



 そんな、決意を新たにする夜だった。




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