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魔法絵師マリカの不思議なアトリエ  作者: O.T.I
幽霊婦人《シニョーラ・ファンタズマ》

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探索



 カルロさんの証言を受け、私達はとある場所へとやって来た。

 そこは『紳士』や『兄弟』の魔法絵が保管されていた倉庫とは別の地下倉庫。

 温度湿度が年間を通じて一定に保たれており、ワインなどの酒類、保存食、日持ちする野菜や穀物などを保管する場所……とのこと。


「ここでカルロはあれ(・・)に取り憑かれた?」


「多分。話を聞いた限りでは……ね」


 この倉庫で彼は『黒い靄』を発見し、そこからの記憶があやふやなものになっている。

 幽霊騒動の時に目撃されたのは『白い靄』だったし、その正体がフェデリカさんたち『家族の肖像』であることは既に判明している。

 だったら、その黒い靄こそカルロさんに取り憑いた『邪なる存在』であるのは間違いないと思う。


「……今のところ、あいつ(・・・)の雰囲気は感じないですニャ」


『そのようですね』


 ミャーコの言葉にフェデリカさんも同意する。

 フェデリカさんは魔法絵としての役割からすれば当然とも言えるかもしれないけど、ミャーコも『邪なる存在』とやらの気配のようなものを察知出来るみたいなのよね。

 だからこそ二度も私を襲撃から護る事が出来たのでしょうけど。

 今回もそれに期待させてもらいましょう。



「それにしても……良かったの?カルロさんにあんな嘘をついて」


 カルロさんの部屋を出るとき、彼はアンゼリカが現場には行かないように釘を刺したのだけど……この娘、「そんなところ、怖くて行けないわ」なんてシレッと嘘をついたのよね。

 あなた、そんなタマじゃないでしょう。


「いいのよ。私が現場に行くなんて言ったら、カルロもついてくるって言うに決まってるのだから」


 まあ、それはそうだろうけど。

 病み上がり?の身体で無理はさせられないと言うのは私も同意見だ。

 だけどねぇ……


「私としても、あなたは大人しくしておいた方がいいと思うんだけど……」


「あら、あんな神出鬼没の相手なら屋敷のどこにいたって危険はあるでしょ?だったらこっちから居場所を探ったほうが良くない?」


 まったく、この跳ねっ返り娘は……

 だけど彼女の言うことにも一理ある。


「……まあ、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』とも言うからね」


「??何かしら、それは?」


 私が思わず口にした言葉に、アンゼリカは不思議そうな顔で聞いてきた。


「遠い異国のことわざよ。何か大きな成果を得るためには、時に危険を冒す必要がある……って意味」


「まさにその通りよ。ただビクビク震えて待つだけなんて性に合わないもの。それに……私だって魔法学園では首席なんだから。襲ってきたって返り討ちにしてやるわ」


 彼女のその言葉に私は苦笑する。

 ほんと、怖い物知らずと言うか、肝が据わっていると言うか……とても大貴族のご令嬢とは思えない感じだけど、それが彼女の魅力なのかもしれない。


 それにしても……凄いわね。

 王立魔法学園は、魔法関連の教育機関としてはチェレステ王国最高峰と言われている。

 そこで首席ってことは、それだけで彼女は並の魔道士ではないと言う事だ。

 アンゼリカは私の魔力量に驚いていたけど……その割に私は普通の魔法はあまり得意じゃないから、もしかしたら純粋な魔道士としては彼女の方が優れている可能性も。


 それでも一応、私からも釘は刺しておこう。


「意気込むのはいいけど。あいつには退魔(エゾルチズモ)の魔法も通じなかったし、他の魔法も通じるかどうか……。それに、また誰かに取り憑いたりしたら……下手に攻撃魔法なんか撃つわけにもいかないし。とにかく、もしあいつと遭遇したとしても、危険と判断したらさっさと逃げるわよ」


 魔法絵の機能が完全に復活するまでは、まともに戦えるのかどうかも分からない。

 今はできるだけ情報収集に努めなければ。


「まったく、まだるっこしいわねぇ……手っ取り早くやっつけられれば良いのに。……そうだ。フェデリカさんはまだ封印する程の力は戻ってないって言ってたけど、何か攻撃手段はないのかしら?倒すまで至らなくても、弱体化させたり追い払ったり……」


 ホント、いちいち言動が男前ね……この娘。

 アンゼリカに問われたフェデリカさんは、少し考える素振りを見せてから答える。


『そうですね……今の私でも、おそらく追い払うくらいは出来ると思います。もし誰かに取り付いていたりしていたら、宿主にショックを与えるなどして追い出す必要はあるでしょうけど』


「う〜ん……あまり手荒な真似はしたくないけど、そうも言ってられないか。ミャーコ、もしそうなったらなるべく手加減してね」


「ニャっ!了解ですニャ!」


 そんな風に段取り……と言うほどのものではないけど、取り敢えずの方針を決てから倉庫の探索を進める。


 地下倉庫と言っても、食料の保存をするだけあって清潔に保たれている様子。

 湿気が籠もることがないように、通気孔によってしっかり空気が循環するようにもなってるみたい。

 少しひんやりとしていて、今の季節だと心地よく感じる。

 照明は必要最低限で薄暗いけど、探索に困るほどではない。

 降りてきた階段からまっすぐ奥に向かって通路のようになっていて、その両脇に幾つもの大きな棚が列をなしていた。

 奥の突き当たりまではかなりの距離があり、相当な広さを持つ倉庫のようだ。


「カルロさんが『黒い靄』を見たというのは……」


葡萄酒(ヴィノ)の棚ね。確か……あっちの方だったかしら?」


 そう言ってアンゼリカが案内しようと歩き出す。

 お嬢様が地下倉庫のレイアウトなんて良く知ってるわね……と思ってチラッと彼女の方を見ると、私が言いたいことが伝わったのか、なぜかバツが悪そうな顔をしながら答えてくれた。


「子供の頃、何度かここに忍び込んで隠れたことがあるのよ。理由はよく覚えてないけど、たぶん何か嫌なことがあったとき……だったと思う」


 それから、彼女は過去を懐かしむような表情となって続ける。


「そんなとき必ずお母様が探しに来てくれて……笑顔で抱きしめてくれたわ。きっとそれが嬉しかったから、何度も同じ事をしてたのね」


「優しい方だったのね。そう言えば……あの貴婦人の絵はお母さんに似てるって言ってたけど……」


 私はそう言いながらフェデリカさんの方を見る。

 当たり前だけど、あの貴婦人の絵とフェデリカさんはよく似ている。


「なんとなくの雰囲気の話よ。ま、まあ、それはともかくとして……せっかくこうして会えたのだから、仲良くしてくれると嬉しいわ」


『ふふ……そう思ってもらえるのなら、私も嬉しいですね』


 少し照れながらのアンゼリカのセリフに、フェデリカさんは優しく微笑みながら返した。

 でも、アンゼリカは直ぐに顔を曇らせて……


「あ、でも……あいつを封印したら、フェデリカさんも眠りについてしまうのよね……」


 ……と呟く。

 確かに、フェデリカさんたちは封印のために長い眠りについていたと言っていたから、今回も何とかアレを再び封印できたら彼女とはまたお別れ……と思ったのだけど。


『いえ、出来るだけ封印の効力を強めるためにそうしていましたが……今回のような事態を考えると、それも考えものですね』


「本来ランティーニ家に伝わっているはずの情報が途切れてしまって……魔法絵の劣化が見過ごされてしまった」


『ええ。今回はたまたまマリカ様がいてくださいましたが、今後の失伝の可能性を考えれば、私達の誰かは定期的に具現化した方が良さそうです』


「あとは魔法絵師も必要よね……。考えたことなかったけど、私が後進を育てるしかないのかしら。私自身まだ修行中みたいなものだし、相当先の話でしょうけど……」


 また話が大きくなってきたわね。

 私はある目的のため魔法絵師としての力をつけようとしてるけど、それはあくまでも個人的なこと。

 誰かに継承するなんてことは全く考えてなかった。

 でも、せっかく現代に復活させた知識や技がまた失われてしまうのは確かにもったいないとは思う。

 まあ、まだまだ先の話でしょうけど、少しはそれも考えておかないと。


 そんな風に私が思案していると、アンゼリカが別の疑問を口にする。


「そもそも……封印じゃなくて、やっつけちゃう事はできないの?」


 確かに。

 もし滅ぼす手段があるなら、その方が手っ取り早いと思うけど。


 だけどフェデリカさんは首を横に振ってそれを否定する。


『それはできません。確かに、かの者は世界に害をなす存在ではありますが……それと同時に、この世界にとっては必要な存在でもあるのです』


「世界に必要?それはどういう……」


 その意味を聞こうとしたのだけど、しかしフェデリカさんは黙して語らず。

 どうやらそれ以上は『禁則事項』に触れるということかしら?


「まあ倒すのが無理なら、今は何とか所在を突き止めて封印するしかないけど……アンゼリカ、この辺の棚がお酒みたいだけど?」


「そうね、カルロは葡萄酒(ヴィノ)を選ぼうとしていたって言ってたから、もう少しあっちの方ね」


 一口にお酒と言っても、種類ごと年代ごとに細かく整理されてるみたい。

 そしてワインだけでも幾つもの棚があるらしい。

 やっぱり大貴族は凄いわね……

 エルジュ家(うち)は私もメイお母さんもお酒は飲まないから、これが大貴族にとって普通のことなのかは分からないけど。


 そして私たちはワインが保管されている棚のある一画へとやって来た。

 ぱっと見では特に変わったところは見られない。

 だけど……


「ニャ……ちょっとだけ、イヤな感じが残ってるですニャ」


『微かに残滓のようなものを感じますね』


 と、人ならざる二人は何らかの痕跡を察知した様子。


 さて、ここに何らかの手がかりが残されているのかどうか……




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