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魔法絵師マリカの不思議なアトリエ  作者: O.T.I
幽霊婦人《シニョーラ・ファンタズマ》

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大魔法絵師プラティマ


 それから私とミャーコはいったん工房に戻り、『黒猫』の絵を手にしてから再びランティーニ家にやって来た。

 昼に仮眠を取らせてもらった客間に、私とミャーコ、アンゼリカ……そしてフェデリカさんの姿もあった。



「へぇ……それがミャーコちゃんの魔法絵なのね。うん、やっぱり可愛いわね!」


「にゃ〜、ありがとうですニャ」


 持ってきた黒猫(ミャーコ)の絵を見てアンゼリカが手放しで褒めると、その当人は耳と尻尾をピコピコさせて喜びを表現しながらお礼を言った。


 私の作品はどれも心血を注いだものばかりだけど、これは特に……文字通り魂が籠もってるからね。

 私も嬉しいわ。



『この程度の大きさでここまで高度な具現化を実現するとは……マリカ様は、さぞかし名のある魔法絵師なのでしょうね』


 フェデリカさんもそう褒めてくれるけど……


「いえ、今の時代には魔法絵師って殆どいなくて……というか、私以外の他の魔法絵師には会ったことがないんです。私が魔法絵の技術を習得したのも、何とか残っていた古い文献を頼りに……魔法のことは色々とお母さん聞きながら、あとは独学で。だから、自分の実力がどれくらいなのかはよく分からなくて」


 比較対象がいないから。

 でも、伝説に語られる魔法絵師の力が本当なら、私なんてまだまだ駆け出しのヒヨッコだろう……とは思う。


 だけどフェデリカさんは、私の話を聞いて驚きで目を見開いていた。


『ほぼ独学で……なるほど。やはり希有な才能をお持ちのようですね。あなたならきっと、我がマスターにも匹敵するような大魔法絵師になれることでしょう』


「凄いじゃない、マリカ!」


「マスターが凄いのは当然ですニャ!」


「ふふ……みんな、ありがとう」


 そんなふうに褒められると照れてしまう。

 でも、最近はどうにも手詰まりを感じているのよね……


 私の目標のことを考えれば、もっともっと力を付ける必要がある。

 だけど、メイ母さんの書庫にあった昔の文献を頼りにしても自ずと限界があった。

 たぶん内容的にはそれらは入門書みたいなもので、私はもう殆ど書かれていたことをマスターしてしまったのだから。

 だからここから先に進むためには……もっと高度な内容が書かれた資料が欲しいところ。


 私がアトリエを開いて魔法絵を売ったりするのも、成り行きとは言え魔障怪異の解決を請け負ってるのも……なにか手がかりが得られないかと期待してのこと。


 そう言えば……『大魔法絵師プラティマ』の話をフェデリカさんに聞いてみても良いかも。

 何か私の成長に繋がる情報が得られるかもしれないしね。


 そう思った私はさっそく彼女に聞いてみることにした。



「フェデリカさん、『大魔法絵師プラティマ』について話を聞かせてもらえませんか?」


『マスターのことですか?そうですね……』


 そう言って彼女は私の願いに応えるため、知られざる古の大魔法絵師について語りだし……私だけでなくアンゼリカやミャーコも、興味深そうに彼女の話に耳を傾けた。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 かつて……私たちがいま住んでいるチェレステ王国が成立するよりも前のこと。

 その時代でも魔法絵師は希有な存在だったらしいが、それなりに世間には認知されていたと言う。


 彼らが描いた魔法絵は、当然ながら少数生産であるため非常に高価なものであり、主に王侯貴族や富豪たちが顧客だった。

 魔法絵の用途としては、インテリアを兼ねたセキュリティ装置や空調などの快適設備……あるいは、絵に描かれた存在を呼び出して使役するなど、その役割は多岐に及んだ。


 特殊な技術と知識、莫大な魔力を持つ魔法絵師の中でも、プラティマは頭一つ抜きん出た力を持っていたという。

 故に敬意をもって『大魔法絵師』と呼ばれていた。

 もちろん彼が描いた魔法絵も、他の魔法絵師が描いたものとは一線を画す力を有していた。

 魔法絵の力は、そこに描かれたものを『具現化』するというものだが……当然、描く魔法絵師の力量によって具現化できる対象が変わってくる。


 例えば、今の私の最高傑作である『黒猫(ミャーコ)』やフェデリカさんのように、人間と同等の知能を有し自立した意志をもつ存在を生み出すことは、普通の魔法絵師では不可能だったらしい。


 その点だけでも優れた魔法絵師と言えるのだが……プラティマは更に超越した力を持っていた。

 例えば彼の描いた魔法絵の中には……


 遠く離れた場所どうしを繋ぐ『扉』の絵。

 国を守護するほどの強大な力を持つ『竜』の絵。

 『屋敷』の絵であれば、実際に広大な屋敷の中に入り、そこで暮らすことが出来たという。


 彼はまさに……私が幼い頃に義母からおとぎ話として聞かされた、偉大なる魔法絵師そのものだったのだ。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「はぁ〜……そんな凄い人だったんですね……」


 フェデリカさんから話を聞き終えたあと、私は感嘆のため息をつきながら言う。

 そして……子供の頃にメイお母さんから昔ばなしで聞いたような魔法絵師が実在したと聞き、私の『目的』が絵空事ではないと分かって嬉しかった。



「でも、魔法絵師ってそんなに凄い力を持っていたのに……何で廃れちゃったのかしら?マリカのあの(・・)修復作業を見てたら、確かになり手は凄く限られるとは思うけど……その力が失われるのは、あまりにも勿体ないわよね」


 一緒に話を聞いていたアンゼリカがそんな事を言ったが……それは確かにそう。

 そもそも、それほど偉大な大魔法絵師が……せいぜいがおとぎ話になってるくらいで、その名前すらも現代に伝わっていないのは不自然な気がした。


 それを聞こうと、フェデリカさんに視線を向けると……彼女はそれを察して先回りして答えてくれた。


『今の話は私が描かれた時に予め与えられた知識なのですが……私たちは邪なる者を封印するため殆ど眠りについていたので、その後の歴史のことは分からないのです』


 なるほど……それならしかたない。

 それよりも、今は『邪なる者』の事を聞いたほうが良かったわね。

 あれ(・・)を再び封印するために、魔法絵の修復作業は進めていかないとだけど、いつ襲ってくるか分からない敵がどういう存在なのか知っておかなければ。



「ではフェデリカさん。あなたが封じていた『邪なる存在』とは、いったいなんなのですか?あれ(・・)は、『閉ざされし世界(ジャルディーノ)の封印を解放せし者』なんて言ってましたが……」


 そう私が質問すると、なぜかフェデリカさんは目を瞑ってしばらく無言になる。

 それから彼女はようやく口を開いたのだけど……


『……ごめんなさい。それは私には(・・・)話すことができないの』


 その答えに、私とアンゼリカは顔を見合わせて困惑するのだった。




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