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魔法絵師マリカの不思議なアトリエ  作者: O.T.I
幽霊婦人《シニョーラ・ファンタズマ》

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襲撃



 魔法絵の修復作業を開始してから数日後。


 既に『貴婦人』と『紳士』の修復は完了し、そして今……残る『兄弟』の絵も、最後の一筆を描き終わった。



「……ふぅ、これで修復は一通り終わりね」


「お疲れ様、マリカ」


「マスター、お疲れ様ですニャ!」


 絵筆に込めていた魔力を霧散させ、一息ついて緊張を解いた私に、アンゼリカとミャーコが労いの言葉をかけてくれた。



「はぁ〜、凄いわね……あのボロボロだった絵が、こんなにも色鮮やかに蘇るなんて」


 感嘆のため息とともに、アンゼリカがつぶやきを漏らす。

 彼女の言う通り、家族の肖像は往時の色鮮やかさを取り戻していた。

 もちろん、オリジナルとは異なる点もあるかもしれないけど……従来の雰囲気を損なわずに可能な限り復元できたと思う。


 歴史的な作品を修復するということは、多大な責任を負うということだ。

 失敗が許されないその仕事を、私は全うすることが出来た……そう自負している。




「これで……魔法絵としても復活したの?」


「いえ。まだ最後の仕上げが残っているわ」


「仕上げ……?」


「ええ。まず……まる三日ほどは乾燥させる必要があるわ。その間は定期的に魔力を注いで……そうやって完全に定着させるの」


「うぇ……あんなに魔力を使ったのに、まだ必要なの?」


「ええ。それから……」


「まだあるのね……」


「これが本当に最後の手順。つまり……魔法絵として機能するように『活性化(アクティベート)』するのよ」


 修復作業を開始する時にアンゼリカに説明した通り、とにかく大量の魔力を注いで、なかば無理やりに魔力を絵に定着させる。

 一度そうしてしまえば、あとは空気中に含まれる魔力から自然に補充するようになるので、半永久的に機能を発揮できるようになる。


 もちろん、この絵がそうだったように、絵そのものが劣化してしまえば機能停止してしまうことになるわけだけど。



「そっか〜……じゃあ、まだお披露目はお預けなのね」


「ふふ……もうちょっとお待ち下さいな、お客様」


 私が冗談めかして言うと、アンゼリカは、ぷっ……と吹き出した。


 ここ数日の間に彼女とは随分仲良くなれたと思う。

 新たな友人を得られた……それだけでも、この依頼を受けた価値があったわね。

 あとは、しっかり最後までやり遂げましょう。



 ……と、そこまで考えて、改めて思い直してみると。

 この依頼って、もともとは絵の修復じゃなくて、『幽霊(ファンタズマ)』を何とかすることだったのよね。

 その原因がこれらの絵にあることは間違いないと思うのだけど……

 事実、三点の絵を揃えて修復作業を始めてからは、幽霊は出現していない。


 調査・修復作業で得られた情報から、私はある推測を立てている。

 あの『幽霊』は、『貴婦人』と『紳士』『兄弟』が別々となり、魔力も殆ど枯渇しかけた状況で、なんとか役割を果たそうとした結果である……と。


 そうすると、一つの懸念がある。

 私は最初、この絵の機能はかなり昔に失われていたと考えていた。

 だけど、どうも割と最近まで機能が生きていたような痕跡があるのよね……

 だからこそ残滓としての『幽霊』が現れたのだと言えるかもしれないけど。

 仮に、この絵が何らかの悪しき存在を封じていたのだとしたら……?

 そう考えると、何だか嫌な感じがする。




「どうしたの?何だか怖い顔をしてるけど……」


「え?あ……ううん、なんでも無いわ」



 いけない。

 ちょっとぼ〜っとしてたみたい。

 私はアンゼリカを心配させないように笑顔を向ける。



 だけど……一度頭に浮かんだ不吉な予感は、なかなか追い出すことが出来なかった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「すっかり遅くなってしまったわね」


「お腹がすいたですニャ」


 今日の作業を終えた時点で夕焼け空だったけど、ランティーニ家を出たときには既に日が沈んで暗くなっていた。

 今日中に修復作業は終えようとギリギリまで頑張った結果ね。


 いつもより遅くなったからアンゼリカに夕食を食べていくように勧められたのだけど、やはりミャーコの事があるので丁重にお断りして帰宅の途についている。



「早く帰ってご飯を作らないとね」


「お手伝いしますニャ!」


「そうね……そろそろミャーコにも、お料理覚えてもらっても良いかも」


「ニャ!!頑張るですニャ!!」


 本人もやる気あるし、私も助かる。



 そんな話をしながら賑やかな繁華街を抜け、工房のある丘へと続く人気のない路地に入る。

 このあたりの治安は良い方だけど、暗い夜道を女の子の二人で歩くのはちょっと不安に感じる。

 そんな気持ちもあって、私達は少し足早になって上り坂を進んでいくのだが……



 何だか不穏な感じがする。

 私がそう思った、ちょうどその時のことだった……!




 ヒュンッ!!



「……!?マスター!!危ないニャ!!」


 突然ミャーコが警告を発したかと思うと私の前に飛び出して、風切り音を立てながら飛来する何か(・・)を弾き飛ばした!



「な、なに!?なんなの!?」


 キンッ!!キキンッ!!!


 間断なく襲い来る何かを、ミャーコが私を守るようにして立ちはだかりながら弾き飛ばす。

 その手に握られてるのは……あれは果物ナイフかしら?

 確か、今日の休憩中に(ペーラ)の実を剥いて出してくれたんだっけ。

 よくそんなもので……



 私が呆然としている間にも襲撃が続いたけど……やがて、始まったのと同じくらい唐突にそれは終わりを告げた。



「お、終わった……?」


「…………逃げられたみたいですニャ」


 襲撃が途切れたあとも暫く周囲を警戒していたミャーコだったけど、どうやら()の気配が無くなったらしい事を察して構えを解いた。



「いったい……何だったの……?」


 冷静になってみれば、あの襲撃は明らかに私を狙ったものだった事が分かる。

 ミャーコがいなかったら……そう思うと恐怖がどっと押し寄せくる。


 私は自分自身を抱くようにして、ただ身震いすることしか出来なかった……


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