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美術工房・天地〈アテリエ・アメツチ〉

表紙イメージ

挿絵(By みてみん)

 ようこそ『アテリエ・アメツチ』へ。

 私は工房主のマリカ……魔法絵師(ピットーレ・マジコ)よ。



 え?

 『魔法絵師』って何なんだ……ですって?

 ふふふ、良くぞ聞いてくれました!



 それは、むか~しむかしのこと。

 かつて栄えた古代魔法文明の、偉大なる魔法使いたち。

 その中でも、絵筆に魔法を載せて、不思議な不思議な『生命ある絵』を描き出した人たちがいたの。



 曰く、森を描けば爽やかな香りが、花を描けば甘い匂いがそこから漂った。


 曰く、人や動物を描けば、そこに魂が宿って飛び出した。


 曰く、偉大なる神々を描けば、それに祈るものに加護をもたらした。


 そして曰く、それを極めれば……異なる世界へ通じる扉を描き出し、あるいは新たな世界すら創造せしめたという……


 それが魔法絵師(ピットーレ・マジコ)よ。

 どう?

 凄いでしょう?


 でも、今となっては伝説で語られるだけの存在なの。

 もうこの世には……私しかいないかも知れないわ。




 ……え?

 キミはそんなに凄そうに見えないですって?

 まったく、失礼ねぇ……


 まぁ、確かに私は魔法絵師としてはまだまだ。

 修行中の身だからね……



 でも、今はまだ未熟な私だけど……

 この工房の名前……『天地(アメツチ)』はね、いつか伝説のように世界すら創造するくらいの魔法絵師になる……って願いを込めて名付けたの。


 いつかきっと、私は伝説に語られる魔法絵師たちのようになってみせる。

 そして、いつかきっと……私は私の望みを叶えてみせる……ってね。



 え?

 私の『望み』?

 え~と、それはね……




 あ!

 ごめんなさい、ちょうどお客さんが来ちゃったみたい。

 その話はまた後でね。



 まぁ、あなたがこれから先……この世界(ジャルディーノ)と私の物語を見届けようとしているなら、そう遠くないうちに分かるはず。

 ……たぶんね。




 それじゃあ、また後でね…………






 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 カランカラン……


 画廊(ガラリエ)の方からドアベルの音が聞こえた。

 どうやら来客のようね。



 私は創作の手を止めて絵筆を置き、色とりどりの絵の具で汚れたエプロンを外す。

 そして来客を迎えるべく、工房から画廊へと続く扉に向かおうとするが……



 カチャ……


 私が開けるよりも先に扉が開かれた。



「マスター、お客様がお見えですニャ」



 工房に入ってきて来客を告げたのは、年の頃は十歳くらいの可愛らしいメイドさん。

 頭の上にはフサフサの毛に覆われた猫耳、お尻のあたりからはやはり猫のような尻尾が生えている。

 それらは飾りではなく紛れもない本物で……彼女は獣人族なのだ。

 表向きは……だが。


 髪の毛も猫耳も尻尾も艷やかな黒、猫のように大きな瞳の色も黒、メイド服も黒が基調で……彼女は全身が黒ずくめだ。



「うん、ありがとうミャーコ。いま行くよ」


 私は彼女……ミャーコに返事をして、お客さんが待つ画廊に出た。





「お待たせしました。ようこそ『アテリエ・アメツチ』へ。私は工房主のマリカと申します」


 そこで待っていたのは、一人の老紳士。

 中々にダンディーなオジサマね。

 服装や雰囲気からして、どこかの貴族家に仕える執事といったところかしら。

 涼し気な顔でジュストコールを着こなしているけど、暑くはないのだろうか?


 今は初夏。

 一年を通して比較的温暖な気候のこの街……チェレステ王国の王都ヴィネンツェ。

 ここ最近は晴れ間が続き、今日も外は暑そうだ。

 よく見れば老紳士の額には薄っすらと汗が滲んでいた。


 そして、彼はどういうわけか私を見て驚いている。



「?……どうされました?」


「おっと、これは失礼いたしました。店主殿があまりにも若く美しい方だったので、思わず見惚れていました」


「まぁ……お上手ですね」 


 サラッとそんな事を言ってくるけど、そう言われて悪い気はしない。

 ダンディー老紳士は、かなり女性の扱いに慣れてらっしゃるようね。



 私の容姿は……

 腰まで届くくらいのサラサラストレート髪を、今は頭の後ろで一纏めに纏めている。

 今は銀髪に見えるけど、陽の光に当たると虹色に輝く不思議な色合いだ。

 瞳の色は金色。

 自分で言うのもなんだけど、容姿にはかなり恵まれていると思う。



「申し遅れました。私は、とある貴族家に仕える使用人で、カルロと申します」


 やはり。

 私の見立ては間違ってなかったようね。

 見たまんまだけど。



「カルロさん、ですね。ようこそお越しくださいました。外は暑かったでしょう?ミャーコ、何か冷たいお飲み物を……」


「はい、分かりましたニャ」


「あぁ、どうぞお構いなく。仰るとおり、外はかなりの暑かったのですが……しかしどう言うわけか、ここはとても涼しいですね……?」


 不思議そうに彼は言う。

 確かに、外よりもこの工房の気温は低いはずだ。

 快適に過ごせるように仕掛けが施してあるから。


 その秘密は……


 私は画廊の壁の一点を指し示し、説明する。



「この絵のお陰ですね。夏場は部屋を涼しくするために、これを掛けるようにしてるんですよ」


 そこには、そこそこの大きさ……多分、20号くらいの風景画が掛けられていた。

 それは雪化粧の王都の街並みを描いたもので、近づけばそこから冷気が放たれているのが分かるはず。


 これこそ、魔法絵師(ピットーレ・マジコ)たる私が描いた魔法の絵だ。



「おお……これが噂の……」


「あら、ご存知なんですね。と言う事は……本日は魔法絵をお求めで?」


 私の描く魔法絵の事は噂になりつつあるけど、まだそれ程知られている訳では無い。

 彼 (の主人)が噂を聞き付けて、魔法絵を欲しているのだろう……と私は思ったんだけど。



「あ、いえ。私が本日こちらにお伺いしたのは……もう一つの噂の方ですな」


 その言葉に、私はピクッ……と眉を動かす。



「なるほど……『魔障怪異(ディアボロ・ミステロ)』のご相談ですか。でしたら……立ち話もなんですので、こちらへどうぞ」



 どうやら長い話になりそうだ……と思った私は、彼を商談のための部屋へと案内するのだった。

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