3節
―――交易都市 地下―――
白と黒が早朝の道端で喧騒を繰り広げていたのと同時刻。
地下の一室で2人のローブを羽織った男たちが話し込んでいた。位の高いであろう男は、もう一人からの報告を聞いた途端、ヒステリックに喚いた。
「一体これはどういうわけだ!?あれだけの手勢を送り込んでおいて、手も足も出ずあっさりと全滅するとは!!??」
充分と思われる戦力を用意し、対象が油断していたところを襲撃させたはずであったにも関わらず、届いた報告は散々なものであった。ほとんどの者が再起不能となり、それ以外も重傷のため戦線復帰にはかなりの時間がかかるとのことだった。
「2人の内戦闘力のあるのは男の方だけであったとのことでしたので、それほど脅威ではないと判断していたのですが…。あの男想像以上の手練でした。物理的な肉体改造はあまりされていないようでしたが、技術や経験がとてつもない水準です。」
報告を続ける部下に男は更に激昂する。
「敵を褒める暇があるなら、何か打開策を考えろ!!このままでは計画にも大きな支障が出かねんのだぞ!!」
「・・・現状は静観しかないでしょうな。こちらの被害は甚大ですし…、正直相手が悪すぎます。それにもう一つ懸念がありまして。」
「なんだ!?これ以上問題を増やすのはやめてくれ。」
頭を掻き毟りながら男はため息混じりに喚く。
「連れの少女ですが・・・。あの戦闘をしっかりと見ていました。」
「・・・なんだと?」
頭に昇っていた血が急激に下がり冷静になる。その報告の異常性が容易に想像できたからである。報告通りであるなら、現場での戦闘は相当な高速で繰り広げられていたはずだ。それを当然のように認識できる少女となれば、只者ではないのは明白である。
「まさか・・・・・・、ついに現れたのか?いやそれはないだろう。いくらなんでもそれはない。」
男は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「どうかされましたか?顔色が優れないようですが。」
「なんでもない。それより今後のことだが、その2人組は当面放置だ。計画を優先し、予定を早める。」
そう言うと、男は首に下げていたペンダントを祈るように握る。
「―――銀の炎を再び地上に輝かせるために。」
―――数時間後 地上―――
「だっくすふん!!」
「お前それくしゃみのつもりか?どんなくしゃみだよ。」
「誰かが私を褒め称えている・・・?」
「噂通り越してんじゃねえ。お前のどこに褒める要素があんだよ。棒みたいなスタイルの寸詰まりのくせに。」
「うるさい悪人面。」
凄惨な現場から移動した黒と白だったが、人通りも増え始めた大通りで未だに言い争う2人。微笑みながら通り過ぎる者、生暖かい目で眺める者、路上漫才と勘違いし投げ銭する者までいたのであった。
「毎度あり〜。」
それを笑顔で拾い集める白。顔を手で覆いため息混じりに呆れる黒。
「お前に恥ってもんはないのか・・・。」
そう言いながら、黒は今後の身の振り方について思案する。
(さて、これからどうしたもんかね〜)
こちらの動きは相手方に筒抜けの様子、交渉する気配すらなく問答無用で攻撃、おまけに襲撃してきたのは狂信者の集団である。
「どっちかが滅ぶまでになりそうだな、こりゃ。まあだがそれならそれで話は早えがな。」
もとより黒はそういう世界の住人である。戦場では敵に情けを掛けてもいいことはまず無い。その場で油断させて背後からとか逃げてから仲間と戻り報復など、大概は手痛いしっぺ返しを食らうのがオチだ。それならばいっそのこと。
「おい白、拾った金いつまでも数えてねえで移動するぞ。」
熱心に金勘定をしていた白が目を光らせて返答する。
「オーケー。次はどこで稼ぐ?」
「目的が完全に変わってんぞお前‼俺たちは芸人じゃねえんだぞ‼」
黒はかなり本気で怒ったつもりであったが、それも周りからは仲睦まじく見えたようで、白もまたその怒りは伝わっていないようだった。
「え〜じゃあどこいくのさ?」
「決まってんだろ。根本的な問題を解決するのさ。」
黒は話しながら怪しく、恐ろしくニヤリと笑った。
すると白はキョトンとした顔で尋ねる。
「・・・アル中って病院で治るの?」
「お前は数時間前に何があったか忘れたんか〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!」
黒は腹から声を出す。ただし今度のは怒りよりも呆れからであったのは、言うまでもない。