3話:半日もあれば見つかります、ホントです
「ほんっと、遅れてごめん!!」
お昼の鐘が鳴ってから、ずいぶんたって。
待ち合わせ場所に現れたユウラは、パウエルの前に来るなり膝をつき、祈るように手を組んだ。
「やめてください。大袈裟な」
「だって、OKもらえて最初のデートなのに。散々待たせて」
「急な大量注文でもあったのでしょう? 仕事なのですから、仕方ないことです」
ユウラと同じく膝をついて、ユウラの組んだ手をほどきながらパウエルは言う。
「なんでわかるの?」
「これを見れば……ええと。失礼します」
そう言ってパウエルは、ぎこちなく、ためらいがちに、掠めるように、ユウラの服を払った。
薄茶色の小麦粉が舞う。
ユウラの服がキレイになってから、そっぽを向いて咳払いをひとつ。
「全く、安息日の礼拝も、それくらいの必死さが欲しいですね」
「もしかして、ばれてた?」
手を引かれて立ち上がり、2人は話しながら歩き始める。
「一昨日も寝てましたね。僕らの側から見れば一発です」
「いやぁ、一昨日のは特に眠くって。導き手様は奇跡を起こさないし。十二弟様たちとも問答しないし」
「物語性が大事ですか。貴重な意見ですが……でも、寝ないで」
「はぁい」
そこまで話して、ユウラはふと気づいた。
「ねぇ、どこに向かってるの?」
「ああ、ユウラさんに行くあてがありましたか? 昨日話した感じだと、ノープランだとばかり」
「いや、ノープランなんだけど。パウエル君もないと思ってたから、びっくりした」
元々は、広場の旅芸人でも見ながら考えようと思っていたが。
他ならぬ自分のせいでとっくに終わっている。
「で、行き先はどちら?」
「ええっとぉ」
パウエルは少しだけ言い淀んでから、けどすぐに諦めて口にする。
「大通りにある、銅細工のお店へ。小物を買いたくて」
「?」
「あなたの誕生日プレゼントですよ。一緒に選んでください」
「え!? え、なんで」
たしかに5日後だ。
けど今言い出すと完全に"ねだる"形になるから、言わずにいたのに。
「洗礼の記録を見たんです……嫌だったなら、ごめんなさい」
「洗礼?」
「生まれたときには、必ず生誕の洗礼を受けますから。教会に記録が残るんです」
なるほど。
けれど、この街で行われた全ての洗礼記録から、18年前の、たった1行の日付探しだ。
「わざわざ、あたしのを探したの? 大変だったんじゃ?」
「慣れれば大雑把に当たりはつくので、そこまででは。けど、すぐ探して本当に良かった」
ユウラがフニャフニャに緩んだ顔になって、ようやく嫌ではなさそうだとパウエルは安心する。
「じゃあ、日が暮れる前に行きましょう」
「あ、待って待って! それなら、こっちがいい」
大通りに歩き出そうとするパウエルを、ユウラが思い切り引っ張った。
「アクセサリー屋さん! 川沿いのさ。髪飾りがほしい」
「ええっ!? お、重くないですか?」
「頭につけるんだから軽いに決まってるでしょ」
「そうじゃないです! 今のはワザとでしょう!?」
「知らない! さ、急ごう!」
お互いの手を引っ張り合いながら、ふたりは駆け出した。