肉まん
今日は7キロ完走できた。
ランニングウオッチを確認すると、消費カロリー250と表示されている。
ちょうど肉まん1つ分に当たる。
ダイエット始めて、今日でまる3日、いまのところは順調にプログラムが消化できている。「あんた、最近たぬきに似てきたわね」そう言い放った妻を見返すべくはじめたランニング、どうやら自分にはあってるようだ。
滴る汗をぬぐい、荒い息を整えると近くのコンビニへ水を買うために向かった。
レジでペットボトルの水を買おうとした時、目の端に映った影に、思わずどきりとした。そのまま自然に目が吸い寄せられていく。
肉まんだ。
艶やかな白い柔肌に包まれたそれは、蒸気に当てられ、きらびやかに光って見えた。
「昼ごろ店頭に出したんですがね、なんせこいつ気位高いから、この柔肌に誰も触れさせず、ここまできやした」ファミ●に囚われた可哀想な肉まん、誰かもらってはくれませんかねと、店員が目でいっている様な気がする。
後ろに並ぶ、お客の一人が「いやー、棚の一番上にあるってことは、こりゃあ最高位の肉まんだな。この気品はあん饅には出せねえぜ。」と表情で語っている気がする。
決して煌びやかなでないシートを身にまとい、慎ましやかに佇む肉まん。
思わず財布の紐を緩めそうになる。
待てよ、あと300円ほどしかないはずだ。
しかもこの金は「父ちゃん、ゴホッゴホッ、なんか冷たいもの食べ、ゴホッ 食べたいよ」
と、とんがらし麺を口に頬張りながら、必死でアイスをせがんだ娘のためのお金。
「娘よ・・・・・・」俺の隠していたとんがらし麺を、と思いながらも300円だけは持ってきていた。
そう悩んでいると、コンビニのドアが開き、流れてきた風とともに「もらってくださらないの」と肉まんの囁きを聞いた気がした。
気付いた時には、「それ一つ」と肉まんの棚に指をさしていた。
その夜、俺は後ろからゆっくりとシートを外してあげて、熱くて柔らかな肌を口に包み込んだ。なんどもなんども・・・・・・
目覚めた時には、窓から朝の眩い光が差し込んでいて、テーブルの上に白いシートだけが残されていた。まだかすかに肉まんの香りがする。
「食べたか・・・・・」
下の階から妻の呼ぶ声が聞こえた。
俺はシートを隠し、少し寂寥感を感じつつも、今日からダイエットは本番だ!と気持ちを新たに、頬をたたいた。
ご覧いただきありがとうございました。