表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

  8.


  8.



 記録的な大寒波が終わって二日。今日も横浜市は晴天であった。

 ミエーレが朝の散歩を終えていつものようにバルコニーから帰ってくると、部屋に甘い香りが広がっていた。

 キッチンではみくるがエプロン姿で、楽しそうにお菓子作りをしている。

 窓を開く音に気付いたのか、ミエーレの方を向いて「おかえり」と声をかけてきた。


「ただいま、みくる。バレンタインのチョコレートかい」

「うん。お兄ちゃん、絶対に期待して帰ってくるからね」


 いつもならミエーレの足拭きを手伝いたがるみくるだが、今は手が離せないらしく近づいてくる様子はない。

 みくるからはたびたび兄妹の仲良しエピソードが出てきており、微笑ましいと同時に少し不安を覚える。

 どうにもみくるのお兄さんは、兄バカの気があるように思われるのだ。

 はたしてミエーレは明日からもこの部屋に滞在することが可能なのだろうか。


(まあ、最終的にはみくるの言い分が通るのは間違いないんだろうけど)


 ミエーレとしては、針のむしろにならないことを祈るばかりである。


 ミエーレは結局、みくるの後見人もとい後見猫として、みくるが一人前の幻想使い(ソーサラー)となるまで共に暮らすことになった。

 みくるが幻想使い(ソーサラー)の才能があることはまだ、機関に知らせていない。

 意図的に龍穴を生み出せる可能性がある少女など、いさかいの種になりかねない。

 時機を見て信頼できる幻想使い(ソーサラー)数人に連絡を入れて、しばらくはごまかそうと思っている。


 みくるが幻想使い(ソーサラー)として花開かなかった場合、生涯に渡って彼女を守る必要があるのだが――


(今から考えても仕方のないことだし、みくるに伝える必要もないかな)


 リビングにあるお気に入りのソファーに横たわると、自然とあくびが出る。

 しばらく寝ていようかと目を閉じたところで、ミエーレの大きな耳がぴくぴくと揺れる。

 近づいてくるみくるの足音を聞き取ったためだ。


「できたのかい」

「あとは冷やして固めるだけだよ」


 どうやら片付けを後回しにして、ミエーレを構いにきたらしい。

 有無を言わさず抱き上げられ、みくるの膝の上に座らせられる。

 こうなるとおしゃべりにつきあわないわけにはいかないので、早めの午睡はおあずけだ。

 その間はなでてもらえるから、不満があるわけではないのだが。


「ふふ、完成楽しみにしててね」

「うん?」

「ミエーレは甘いものはあまりわからないって言っていたけど、せっかくだしミエーレの分も作ってるからね」


 楽しそうに笑うみくるに、つい言葉に詰まってしまう。

 バレンタインに手作りチョコとは実に光栄だが、ミエーレとしては困ったように視線を逸らすほかない。


「あー……、みくる。本当に申し訳ないんだけれど」

「うん?」

「猫はチョコレートが食べられないんだ」

「……ええーっ!?」


 二人のにぎやかな日々は続くのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ