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「小さきモノが、よくもここまでやれるものです」
「上から目線のお褒めの言葉をどうも。追いつめられているのは君だよ、戦乙女」
「ふふ、まだ気付いておりませんか?」
「はぁ。気のせいであって欲しかったんだけど、参ったな……っと!」
ミエーレが放った熱線は魔性が纏う吹雪の衣にぶつかり、真っ白な靄をまき散らす。
その向こうで乙女は蔑むように唇の端を持ち上げた。
(これはダメだな。どういう絡繰りかわからないけど、やっこさんは疲れ知らずらしい)
ミエーレは霊力の操作と出力には自信がある。
この力を得てからは半世紀を過ぎ、一端の使い手になれた自負があるものの、だからこそ現状に勝ち目がないとも理解していた。
彼が冬の戦乙女に与えたダメージは、すっかりと回復されてしまったようだ。
乙女の背後でごうごうと渦巻く冷たき旋風に捕らわれれば、彼の小さな体は空高く持ち上げられてしまうだろう。
ミエーレは速やかに逃走を選択した。これ以上は付き合うだけ、体力と霊力の無駄だ。
(全力を出せば逃げるくらいはいけるかな。はぁ、しばらくはどこかで軒を借りないと)
なにせこの町には縁の下がないからな、と素早く周囲に視線を走らせる。
横浜市新青区。ここ十数年の人口爆発で生まれた新しいウォーターフロントの市街には、コンクリート製のマンションが建ち並んでいた。