表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「サラリーマン」をやりたくて転生しました。

作者: ぴこり


 彼は生まれ変わった。

 永くつらく苦しい生を終え、手に入れた新しい肉体、新しい命。渇望した自由。

 これからは何でも出来る。何にでもなれる。希望に満ち、赤子に宿った魂は運命に感謝する。前世の記憶が残された事に。お陰で、己は道を間違えないだろう。



 順調に育ち、口がきける年になった彼に、周りの大人は優しい眼差しで問う。


「たっくん、大きくなったら何になりたいの?」


 幼児に、一体何を期待してそんな事を聞くのか、理解に苦しむ。しかし問われた彼は即答する。


「サラリーマン!」


 それを聞き、大人達の淡い期待は一瞬にしてしぼむ。

 やはり我が子は、並の子か。事あるごとによもやと期待してみても、蛙の子は蛙。


 しかし成長するにつれ周囲が失望しようとも、彼自身は満足していた。並の成績、並の体力。人並みを越えぬよう、注目を浴びぬよう、細心の注意を払って暮らした。

 特に歴史や物理、語学等は注意が必要だ。長い長い前世で培った彼の知識は、膨大だった。

 体育も気を抜けない。前世の記憶を残して転生した魂の影響か、うっかりすると、筋肉がとんでもない発達の仕方をしてしまう自分に気づいていた。小学校最後の体力測定の後だった。こっそり己の本来の筋力を測ろうと試みた彼が立ち去った後、職員室では、各測定器が何者かによって破壊されていると大騒ぎになった。


 何事にも力を使わぬよう努めた彼だが、ただ一つ譲れないものがあった。顔だ。

 彼の両親は顔の彫りが深く、一度見たら忘れられない、濃い印象の美形だった。正直、そんな顔には飽き飽きしていた。彼が理想とするのは、もっとあっさりして「いい人だけど本命じゃない」と言われる顔だ。

 その為、顔や見た目については多少、前世からふんわり引き継いでしまっていた力を使った。



 数十年が経ち、彼は満たされていた。サラリーマンとして生き、短い人生ながら、決められた枠の中でカッチリ暮らしていく安息。

 もう殺さなくていい。威張らなくていい。「返り討ちにしてくれるわ」なんて言わなくてもいい人生。最高だ。


 しかしいつの世も、酒は魔物である。流石の彼も、酒の魔力にうっかり口を滑らせる事がある。


「バッカヤロウ坂本ぉ~、俺なんて前世は大魔王だぞぉ~~」


「でた部長の前世大魔王説!」


「待ってました部長っ!」



 ……もっともそれが真実だとは、誰も気づかないだろう。




ポイント評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 大魔王だったから前世の記憶が残ってしまったのでしょうか?
[良い点] 面白かったです。 旨いし。 ちょっと嫉妬しましたw
[良い点] にじみ出る大魔王感。良いですねえ。 一緒に飲んで見たいです。 面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ