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3. 王宮魔術師になる準備

 遠ざかっていく家と両親を見つめながらシルヴィアは馬車に揺られていた。

 目の前には美形な第3王子ヴェントゥスが外を眺めている。


(私……今日からこの人の婚約者になるのね)


 シルヴィアは改めて昨夜のことを回想する。

 ヴェントゥスに憑いていた霊を祓って、そしたら婚約者のフリをするように言われて、王宮魔術師になるためにとそれを受け入れた。


 そして今日。少し荷造りをしてはいたがこんなに早く迎えがくるとはとシルヴィアは整った横顔を眺めながら感じていた。





「ここが……王宮」


 シルヴィアは荘厳な城を下から眺めて口をあんぐり開けそうになる。そんなシルヴィアの隣にヴェントゥスは並ぶ。


「色々案内するから早くおいで」

「あ、は、はい」


 颯爽と歩いていく後ろをシルヴィアは追いかける。


(改めて見るとスタイルもよくて美形で、なぜ婚約を拒んでいるのかしら……なんだかもったいないわね)


 後ろ姿を見つめながらシルヴィアは考える。

 白のマントが紺の服によく映えていかにも王子といったような風貌。

 こんな優良物件がなぜ婚約者のフリを必要とするのかシルヴィアは首を傾げるしかない。


「ここが君の部屋だよ」


 扉を開けてシルヴィアは目を見張る。

 公爵令嬢であるシルヴィアの部屋よりも何倍も広くて豪華な部屋だ。「召使いもたくさんつけるから困ったらすぐ言って」とヴェントゥスは飄々と告げる。

 シルヴィアは辺りを見回してからおずおずと口を開いた。


「あの……とっても素敵なのですが使っていない部屋などがあればもっと嬉しいのですが」

「部屋…………?」





「使っていないのなんてここぐらいしかないけれど……何に使うの?」


 連れて行かれたのは敷地内の端の方にある小屋。花壇に囲まれたお伽話のような小屋にシルヴィアは目を輝かせる。

 ただ……中は少し、というかかなり汚い。


「ありがとうございます。ここを使って殿下のいう霊から守る方法を見つけようと思いまして」


「少しばかり改装してもいいですか」とシルヴィアは小屋の中を見回しながら言う。


「わかったよ。好きに使って」


 ヴェントゥスはふふっと笑って「じゃあ僕は戻っているね」と手をひらひら振って小屋を後にする。


「さーて、片付けちゃいましょう!」


 シルヴィアはドレスの袖をたくし上げた。





「よし、これくらいでいいでしょう!」


 ホウキを片手に持ち、シルヴィアは一息つく。手伝ってくれたシルヴィア付きのメイド、ヘレンと召使いたちとも楽しく話しながらシルヴィアは片付いた部屋を見回した。


 魔術道具で溢れかえった部屋。本棚にも魔術書がどっさりだ。

 これらは全て家から持ってきたものだが、これでもまだ足りないくらいだとシルヴィアは不満足げに見る。


(花壇に魔術用の薬草も植えたいわね、それとやはり道具が足りないわ……)


 シルヴィアは魔術ももちろんだが薬学にも長けている。

 魔術師として食えなくなったときのため身に付けたものだが、魔術と薬学はなにかと関わりが多い。


「奥様、先程おっしゃっていた花の件ですが、ここにあるものは全て奥様のものですのでどう使っても構わないとのことです」

「まあ、よかったわ。出来上がったらみんなにもプレゼントするわ」


 シルヴィアはにこやかにそう答える。

 奥様と呼ばれるのにはしばらく慣れそうにはないが、今まで避けられていたシルヴィアにとって家族以外の人と話せるのはとても嬉しいことなのだ。


 シルヴィアは部屋に置いてある香水の瓶を眺める。

 鼻が利くシルヴィアにとって令嬢たちが纏う香りはきついものばかりでストレスだが、花々の自然の香りはシルヴィアの心を癒してくれた。


(好きすぎて自分で作れるようになるとは思ってもみなかったけれど)


 シルヴィアは手首に吹きかけてその心地いい香りにうっとりする。


「でも良い方が奥様になってくださって本当に嬉しいです」


 召使いの1人がそう言う。シルヴィアはうふふと取り繕うように笑う。

 これが条件付き婚約であることはシルヴィアとヴェントゥス2人だけの秘密なのだ。


(婚約はいつか解消されるのでしょうね……でもまあ、王宮魔術師になってしまえば、解決よね)


 きゃっきゃと盛り上がる召使いたちを見てからシルヴィアは「そうだわ」と声を上げる。


「今から殿下のところへ行ってくるわ。改めてお礼をしなければいけないわね」

「では私たちは後片付けをしています」


 ヘレンがそう言い、他の召使いたちも頷いてシルヴィアを見送り出す。


(ここでの生活も頑張らなくてはね)


 シルヴィアはそう決意しながらどこか新しい生活にわくわくし始めていた。


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