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20. 自覚

 呆然と踊り場にへたり込むレイナには目もくれず、ヴェントゥスはシルヴィアに駆け寄る。

 大怪我だ。出血も酷い。

 ヴェントゥスはシルヴィアを抱き上げた。


「あ、あれはシルヴィア様が勝手に……!」

「黙って。戯言は聞きたくない」


 ヴェントゥスはレイナに怒りの目を向け、それから急いで救護室へと向かった。




 手術もしつつ、キースの治癒魔法で治療にあたる。しかしシルヴィアはぐったりと目を閉じたままだ。

 ヴェントゥスはその様子をそばにいたい気持ちを抑えて見つめていた。



 始めは都合がいい婚約だと思った。だけど何事にもひたむきで好きなことに取り組む生き生きとした姿。素敵な魅力に溢れた彼女にとっくに恋に落ちていた。


 ただ、その気持ちに蓋をしようとしていた。

 とっくに惚れきっていたのに夢が大事だと思い込んで目を背け続けた。

 彼女は僕のことなど好きではないかもしれない。でも、あの時別れを告げた彼女の瞳に、声にほんの少しだけ期待してしまった。


 彼女を失うのが怖い。こんな状況にならなければ自分の気持ちも分からないなんて。



 ヴェントゥスはシルヴィアを見つめてから部屋を飛び出した。




 部屋を出るとレイナが立ち尽くしていた。必死に言い訳を考えるように口をパクパクさせるレイナにヴェントゥスは軽蔑の眼差しを向ける。


「……君は聖女ではないのだろう?」


 レイナがハッとヴェントゥスを見る。


「調べたよ。君は隣国の元聖女だ。王子の婚約者だったが男癖がひどい上、危険なほどの嫉妬心。君は魔力は強いけれどそれ以上に危ない血も継いでいた。だから追放された……そうだろう?」


 ヴェントゥスがそう言うとレイナははあと大きくため息をつく。そして「いけると思ったのに」とぼそりと呟いた。


「あの時、君があの村にいたのは自分の血統である魔女の呪いの後始末に来た……そんなところかな?」

「そうです。ただ危害を加えてはいないでしょう。シルヴィア様がほぼ呪いを解除してくださったおかげで簡単に呪いの後始末ができました」


 そう、レイナはあのカルマやシェルジュがいる村に呪いをかけた魔女一族の血を引いている。呪いはおそらくシェルジュが持つ妖精の王国に関する書物が理由でかけたのだろうが。

 その魔力は偶然にも聖女に匹敵するほどだったのだ。


「私は……輝かしい王宮での暮らしを取り戻したいだけだったんです」


 うるうると目を潤ませるレイナにヴェントゥスは哀れみのこもったため息をついた。


 一体、何人の男たちがこの目に騙されて来たのだろう。そしてそれが自分にも向けられていると思うと憤りを覚える。そしてそんな彼女を庇ったシルヴィアを守れなかった自分が腹立たしい。


「シルヴィアに必ず謝るんだ。兄上にも、このことは伝える」


 それからヴェントゥスは衛兵を呼びレイナを睨め付けた。本性を知られている時点でおそらく彼女がこれ以上何かするとは思えないが、信用はしない。


「僕は、君を許さない」


 背を向けて言い放ち、ヴェントゥスは駆け出す。

 その後ろ姿を見てレイナは呆れたように息を吐き出した。


「あの2人……簡単に引き離せると思ったのになあ」





 ヴェントゥスは馬に飛び乗り、ある場所へ向かっていた。目指すはあの不思議な岩。


 きっとシルヴィアを助けてくれる。ヴェントゥスはそう確信していた。


 ぎゅっときつくペンダントを握りしめる。透明な魔法石がヴェントゥスに呼応するように煌めく。


 早く、彼女に好きだと、そう伝えて抱きしめたい。

次回最終話です!

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