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第八話 コミュ障、偽装彼女を紹介する(第一章 完)

前回までのあらすじ!



肉食系↑コミュ障↓。

 およよ、およよよよと、両親が泣いている。


 紆余曲折を経て、元魔王のフラウをマグダウェル家に招いての晩餐会となったのだ。

長テーブルにはマグダウェル家自慢の料理長が腕を振るったアリステン領の郷土料理がところ狭しと並べられ、父と母、そして長兄ルクスと次兄アランも同席していた。


 ぐるぐる巻き髪の母がさめざめと泣きながら微笑む。



「リンドウ、気弱で心配ばかりしていた息子。けれど母は、あなたはいつかやる子だと思っていましたよ。まさかアリステン領を魔王軍の手から救ってくれるだなんて。母は本当に誇らしいです」

「……や、完全、成り行き……」



 声が小さすぎて誰にも届かない。

 知的な長兄ルクスが眼鏡をクイと押し上げながら、ニヒルに笑った。



「おまけに、魔族とはいえこんなにも美しいお嬢さんを連れて戻ってくるだなどと驚いたぞ。婚約者の公募は俺の発案だったのだが、フフ、余計な真似をして悪かったな。しかし魔王フラワリィを惚れさせて戦争を止めるとはな。見直したぞ、リンドウ。男を上げたな」

「……ご、誤解……」



 かなりの誤解だ。

 しかし言葉の通じない魔族のフラウは、どこ吹く風で行儀良くナイフとフォークを動かし、すっきりした顔で肉料理に舌鼓を撲っている。



【ん~っ、おいしっ】



 次兄アランが感心したようにつぶやいた。



「しかし、おまえ。あの魔王軍を自らの旗下に入れるだなどと、どうやったのだ?」

「そ、それ……は……、……あの……魔王を……」



 チラっとフラウに視線を向けるも、言葉のわからないフラウは目線に対して魅力的な微笑みを返すだけで。



「説得か? 魔族とは言語が通じないのに、どうやって?」



 ああ、面倒臭い。

 チートの説明なんてできないし、それにフラウとの話に齟齬が出てしまっては後々厄介な話に発展しかねない。



「……た、たた、倒し……た……?」



 嘘ではない。うん。嘘ではないのだ。フラウ自身も認めてくれている。

 実際には望まぬ崖ドンをかましただけだから違うけれど。いや、一度は殺害したけども。


 アランがナイフとフォークを手に、興奮したように立ち上がった。



「魔王を力で屈服させたのか!? 何たる剛力! おまえはいつかやるやつだと思っていたぞ!」

「う……う……」

「しかし我ら三兄弟の中で辺境伯である父を最初に超えたのは、リンドウだったか。王都のリーシュ王に魔王の討伐を証明すれば、爵位どころか法にも縛られぬ自由意志を認められた勇者位をもらえるな」



 や、いらない。社交界とか絶対ムリだから。

 それに、その反対にボクは魔王位になるようです、兄さん。



「これは俺たちも負けていられんな、ルクス兄!」

「そうだな。人類史上初で魔王位を得た弟には、負けていられん。これまで通り、荒事は任せたぞ、アラン」

「はは、助かる。俺は(まつりごと)が苦手だからな。領内の発展開発は兄上に丸投げだ」



 兄たちが笑い合う。


 アランもルクスも知っていたのだ。リンドウが決して無能ではないということを。

 剣術も体術も、幼少期から驚くべきことにリンドウはアランを常に上回っていた。座学においても、同年齢で比較すればルクスを上回っていた。


 ただ、リンドウ・マグダウェルは心が弱すぎた。優しすぎたのだ。

 それゆえに互いを傷つけ合う荒事や、冷酷な駆け引きを必要とする政には向かぬものとばかりに、二人の兄たちは考えていた。つまりは保護対象でしかなかった。


 それがどうだ!


 まさか人類全体を脅かすほどの存在である魔王の一角を、たった三日足らずの家出で倒して戻ってくるとは! あまつさえ精霊王をも張り倒した上に豪快に食い散らかし、さらに魔王軍をその手中にまで入れて!


 おまけに何だ、あの美少女魔王は! 強大な力を誇る彼女と戦って勝利するだけに飽き足らず、その悪行のすべてを許し、さらにはその女心まで奪っただなどと!

 いったいどれだけ巨大な器を隠し持っていたというのか、あの弟は!


 でかい。あまりにもでかい。


 それまで黙ったまま静かに目元をナフキンで拭いつつ様子を見守っていた父サイノス・マグダウェルが、白髭に覆われた口を開いた。



「それで、これからどうするのだ、リンドウ?」

「……え……あ……」



 リンドウがフラウを盗み見る。

 それに気づいたフラウは、花のような微笑みを返す。それだけだ。けれども、不思議と彼女の微笑みは、リンドウの心に小さな自信と微かな安堵を与えてくれる。



【大丈夫よ、リンドウ。君はわたしが支えるから】



 咳払いを一つして。



「と、父さん、ボ、ボクは、魔王でも……人間……だから」



 一度言葉を句切って、視線を上げる。

 その場の全員が、家族だけではなく言語体系の違うフラウまでもが、リンドウに視線を向けていた。


 リンドウが胸を張り、口を大きく開く。



「魔族と人間族の橋渡しをするために、この元魔王フラワリィ・フォスターさんとともにこれから魔王城へと向かい、そして平和を愛する魔王として、両種族に働きかけていくつもりだ………………です……ハイ……」



 こうして前世から今世まで引き続いてヒキコモリだったリンドウ・マグダウェルは、魔王を討った稀代の勇者になると同時に、魔王職に従事することとなったのだった。


第一章はこれにて終幕です。

数日お休みしてから第二章の投稿を開始しますので、またよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 事態は既にリンドウくんの手を離れて暴走し、収拾が付かないレベルに(笑) でも、最後はキチンとキメましたね! [一言] 愛すべき長兄ルクスさんの計略で始まった家出…
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