第8章 めざせ!イケメンパラダイス
いい家庭教師がつくと、学力が一気に上がるという。
乃亜はまさにダイエットの天才だ。
ココロは乃亜と同じダイエット方を実践した。
すると見る見る体重が減っていった。
無理して痩せるダイエット。
体に悪いのは分かってる。
でもモテたい。
ココロは今までで、今以上にモテたいと思ったことはない。
ダイエットの原動力はやはり隼人だ。
隼人を見返したい。
それだけがココロの折れそうな気持ちを支えていた。
こうして乃亜はやっとテニス部の男子との恋愛をスタートできた。
最近、『テニスの王子様』を読んでると思ったら、やっぱりテニス部か。
ココロは乃亜の分かりやすい性格にあきれつつも、学ばなきゃと思った。
ココロの体重だけは着実に減っていた。
しかし肝心の恋の相手が見つからない。
ダイエットの意味がない。
そうだ、もともと私は面食いなのだ。
それも飛びっきりの面食いなのだ。
だから恋愛ができないだけなのだ。
「なあ、どうしてお前、最近バスケットの試合にこないんだよ?」
隼人は乃亜に怒った顔で言った。
「知らないの?私、隆平と別れたんだよ」
「だからって、いつも応援に来てたじゃないか」
隼人は退院してから、急に真面目部員に変貌していた。
毎日のように練習に参加し、バスケットに打ち込んでいる。
噂じゃ、隼人が中心となってチームつくりを始めたせいで、見違えるほど強くなっているらしい。
まあ、それでも隼人のワンマンチームなのだろうが……。
「この前の試合なんか、県大会の優勝チームだったんだぞ」
決勝で負けたチームと戦ったのか。
「もちろん、ボロ勝ちだったけどな」
隼人がドヤ顔をした。
「やっぱ、隼人ってブサイクね」
「関係ないだろ、そんなこと」
「よく、それでココロの顔、けなせるね」
「顔の話はするなよ、自覚してるんだから」
「でも、まあ、本当に強くなってるんだ」
「俺が指導してるんだぜ、当たり前だろ」
「だから見に来いよな」
「どうして?もう、隆平と付き合ってないし、行くと気まずいでしょ」
「じゃあ、なんで別れるんだよ」
「だって、隆平ってかっこ悪いじゃない」
なんでこんなに隼人は私に応援に来いというのだろう?
隆平がよりを戻したがってるんだろうか?
「次の試合、絶対に来いよ」
「嫌よ」
「全国八位のバスケの名門校が来るんだぞ。応援に来いよ」
「俺のかっこいい姿、見たくないのか?」
なるほど。私にかっこいいところ見せたいだけか?
やっぱ、私って可愛いから。
諦めきれないのね。
「ごめん、私、いまさ、好きな人がいるんだよね」
乃亜は改めて釘をさした。
「ココロに聞いた、今度はテニス部だって」
「なんだ、知ってるんだ」
うん?ふと乃亜は違和感を感じた。
もしかして?
いや、そうか、そうかもしれない。
なるほど、そうかもしんない。
「わかった、応援に行くよ。私だけでいいんでしょ」
「えっ?」
隼人は戸惑った顔をした。
間違いない。小学生か!
「一人で応援に行くよ」
乃亜はわざとそう言った。
「いや……、ココロもつれて来いよ」
「ふーん……」
乃亜は隼人の顔を覗き込んだ。
「なんだよ」
「分かったよ、ココロも誘うから」
「ああ、よろしくな」
「その代わり勝ちなよ」
「もちろん勝つさ」
日曜日、バスケの試合が行われた。
隼人の名声は全国ネットなのだ。
わざわざ、こんなチームのために試合をしに来るなんて。
隼人目当てで試合を申し込んでくるほど、隼人の実力はずば抜けてるのだ。
「なんで今さらバスケの応援なんか……」
「いいじゃん、行こうよ」
乃亜は乗り気じゃないココロを誘った。
本当に相手は全国八位のチームなんだろうか。
互角以上の戦いぶりだ。
チーム自体も強くなっている。
隆平も、前よりうまくなってる。
まあ、だからってよりは戻さないけどね。
冷静になって隆平を見ると、そんなにイケメンじゃない。
少しマシなレベルだ。
ちょうどお笑いタレントのイケメンくらいだ。
とてもジャニーズレベルじゃない。
本当に強い。
これが以前のヘッポコチームなんだろうか?
もちろん隼人のワンマンチームだ。
それでも相手を圧倒していた。
もし顔さえ隠れてたら、かっこいいのに。
あのブサイク顔を見るたびに、現実に引き戻される。
しかし乃亜の隣で応援しているココロは、また魔法にかかってしまったようだ。
「かっこいい……」
思わず、ココロがこぼした。
ココロは他の誰にも目を奪われることなく、視線は隼人だけを追いかけていた。
そしてダンクをきめた後のドヤ顔。
気持ち悪いくらいブサイクなのに。
ココロは虚ろな目で隼人を見つめてる。
試合を支配しているのは明らかに隼人だった。
すべてのボールが隼人に集まるかのように、隼人がゲームを作り上げていく。
隼人は試合中、何度もココロのほうを見ていた。
ココロはそのたびに胸がキュンとした。
そして10点以上の差をつけて勝った。
なんと試合の後、黄色い悲鳴が上がった。
隼人の名を呼ぶ、女子。
なんてことだ。
ブサイクでもモテるんだ。
乃亜はあらためて驚いた。
「本当に全国制覇するかもしれないね」
ココロは乃亜に言った。
隼人がココロのほうに手を振った。
「かっこよかったよ、隼人」
ココロはジャンプをしながら、手を振り替えした。
隼人がニヤリと笑った。
気持ち悪い。
そう思ったのは乃亜だけじゃないだろう。
しかしその瞬間だけ、みんなが隼人の微笑をかっこいいと叫んでいるような違和感を感じた。
「誰よ、あの女。ブサイクなくせして」
女子のひがみの声が飛ぶ。
みんなの憎しみにも似た視線がココロに向けられる。
隼人がモテモテだ。
目を覚ませ、やつはブサイクだ。
それも並のブサイクじゃない。
バスケットで全国制覇できなくても、ブサイクで全国制覇できるほどのブサイクだ。
でもココロはすっかり心を奪われていた。
羨望のまなざし。
幼馴染に見せる顔じゃない。
すでにココロは上の空。
「今日の試合、勝てたのはココロのおかげだと思うよ」
隼人のセリフで、ココロは恋する目になっている。
「惚れ直したろ、ブス」
隼人はココロにいきなりそう言った。
ココロの顔が真っ赤になった。
恥ずかしくて赤くなってるのかと思った。
「鏡見なさいよ、あんた!シュレックみたいなくせして」
しかし怒って、真っ赤になっていた。
「お前だって、アバターみたいじゃないか」
相変わらずだ。
先が思いやられる。
乃亜は微笑ましかった。
そしてこの恋がうまくいけばいいと思った。
「なんだ、恋人じゃないんだ」
「良かった」
女子たちの声が聞こえてきた。
乃亜は急におかしくなった。
隼人がモテてることがおかしかった。
「ライバル、いっぱいね」
乃亜はココロに耳打ちした。
急にココロがみんなを気にしだした。
「奪われるかもよ」
乃亜はココロの背中を押した。
ココロが隼人にぶつかる。
「ちょっと」
ココロは乃亜を叩いた。
私の方見ないで隼人の嬉しそうな顔見なよ。ニヤついてるじゃない。
乃亜はココロに「がんばれ」と耳打ちした。