第4章 ブサイクすぎるスーパースター
「隼人、今度バスケの試合に参加しろよ」
乃亜は隼人を見つけるや否や、そう言った。
「はあ?」
「隼人、バスケ部員でしょ」
「一応ね……、で、どうして?」
「だって、弱いじゃない」
「なんだよ、今度はバスケ部員に恋したのかよ」
乃亜の企みは隼人にはバレバレだった。
「じゃないって。もったいないよ。全国レベルの腕なんでしょ」
「お前、中学時代、一度も応援に来たことないだろ」
「まあ、それはね……。別にそれはそれよ」
隼人がいた中学校は、隼人がいた期間だけ、全国大会の常連だった。
それも1年から3年まで決勝戦敗退である。
学校中が盛り上がってる時でさえ、乃亜は応援に来たことはなかった。
それがいきなりバスケの話だ。
それはバレるのも仕方ない。
乃亜はバスケットなんかに興味はなかった。
ルールもいまひとつ理解してなかった。
「聞いたよ。相手のチームが試合を受けてくれるのは、隼人がいるからだって」
「ふーん……」
隼人は自分の名前が、バスケ部によって利用されてるのは初耳だった。
「なのに、試合にも来てないなんて」
「いいだろう、別に」
「詐欺でしょ」
「学校が勝手に俺の名前出してるだけだし、俺のせいじゃないよ」
「出なさいよ。隆平君がかわいそうでしょ」
隼人はため息を漏らした。
「今度は塚越狙いか」
「そうよ、隆平君が活躍するところ見たいのよ」
「出たくないんだからしょうがないだろ」
「出なさいよ、バスケ部でしょ」
「お前、本当に自分勝手で……」
「仲間でしょ!チームメイトでしょ!あんたに友情なんて熱い気持ちはないわけ!」
乃亜は言葉をまくしたてた。
「で、俺が出ればいいわけ?」
隼人は結局折れてしまった。
それは乃亜の押しの強さや、幼馴染だからというより、乃亜が好きだからというのが本当のところだ。
「出てくれるの!」
乃亜は目をキラキラさせて喜んだ。
「分かったよ、出てやるよ」
こうして隼人は、次の週の日曜日バスケの試合に出た。
まあ、隼人の片思い進行中。
少しぐらい気づいてやれよって感じ。
ココロの知る限り、小学生の頃から片思いだ。
「お前って本当に……」
あのあとなんて言いたかったんだろう。
ココロは勝手に想像した。
「無神経だよな」
こんな感じだろう。
試合はデットヒート。
やっぱり、すごい。
隼人のレベルは全国レベルだ。
先週は弱小チームに見えたのに、今週は相手が弱小チームに見える。
隼人、一人でシュートを連発する。
相手のチームがボールを持っている時間がほとんど皆無だ。
相手ボールになっても、すぐに隼人がカットしてしまう。
相手チームはパスを回すことさえままならない。
圧倒的大差がついてしまった。
1週間前、100点差で負けた弱小チームだったのに……。
今週は100点差以上の大差がついてる。
ワンサイド・ゲームでチームは初勝利をあげた。
隼人、顔さえ良ければ、かっこいいのに。
漫画なら、イケメンキャラだ。
ドラマならきっとイケメン男子が演じるに決まってる。
脚本家だって、ブサイクが主役じゃ納得しないだろう。
でも現実は甘くない。
そこそこイケメンの隆平は、ダメダメ運動オンチ。
ブサイク隼人はスーパースター。
キャスティング・ミスもいいところだ。
こんなドラマじゃ、誰も見ない。
隼人はそれから毎週のように試合をこなした。
チームがたった一人のスーパースターのおかげで生まれ変わった。
そのせいか、対戦相手も強くなっていく。
隼人の噂はあっという間に知れ渡っていた。
そしてついに、去年、県大会で優勝したチームから、対抗試合の申し込みがあった。
それでも試合は隼人の独り舞台だ。
相手が強いせいもあり、シーソーゲーム。
それでもけして引き離されるわけじゃない。
離されては同点に追いつき、それの繰り返し。
そして前半を終えた。
後半もデットヒート。
隼人だけが際立っていた。
相手のチームが隼人一人をマークしても、それさえすり抜けてしまう。
隼人のサラサラヘアーが揺れる。
汗が飛ぶ。
キモ過ぎる。
これがイケメンなら、黄色い声援が飛び交うだろう。
しかし会場は乃亜の声援しか聞こえない。
乃亜はぜんぜん目立ってない隆平の名を呼び続けてる。
乃亜、少しは隼人に感謝しなよ。
ココロは隼人が可哀想になった。
「隆平!走れ!」
乃亜は声援を送る。
それに気がついてか、隼人は隆平にパスを投げた。
隆平はすぐに周りを囲まれ、行き場を失った。
そして慌てて、ボールを投げる。
ボールはリングの方へかろうじて飛んでいる。
このシュートが決まれば、逆転だ。
まるでブザービートじゃない。
ドラマのワンシーンよ。
最後の最後にこのシュートが決まれば……。
でも球の軌道は明らかにそれている。
期待するまでもない。
残り5秒。
最後の最後に隆平の投げた遠投。
それを隼人がジャンプ。
リバウンド。
そのままダンクシュート。
3ポイントなら、逆転だったのに。
2点だけ。
それでも同点。
相手のチームがボールを投げた地点でブザーが鳴った。
やっぱりドラマみたいにはいかない。
去年の県大会覇者に、初めての引き分け試合。
善戦だ。
隼人がヒーローだ。
誰よりも一番輝いていた。
ただブサイクぶりも光ってた。
そして乃亜が声援を送ってるのは隆平である。
試合の後、隼人が乃亜に皮肉っぽく言った。
「お前は松岡修造か!」
あれじゃ隼人もがっかりだ。
それでもチームは盛り上がっていた。
今年は県大会優勝も夢じゃない。
下手すると全国制覇も、などと夢はふくらんだ。
しかし隼人はその試合だけ出た後、また幽霊部員に戻った。