第3章 恋するダイエット
乃亜の今度の恋の相手は塚越隆平。
同じ2年生。
隼人と同じバスケット部員らしい。
とはいえ、隼人は幽霊部員みたいなもので、ほとんど練習に参加してない。
でも隼人は中学時代はかなりの有名人で、全国大会でも大活躍するほどのバスケット選手だった。
それがこの学校に来てから、すっかり練習をサボリ気味だ。
それも分らなくはない。
うちのバスケット部はとにかく弱いのだ。
学校の成績が良かった隼人は、スポーツ推薦を選ばず、進学校を選んだのだ。
だからバスケ部の活動はなおざり。
すぐに練習にさえ出なくなった。
もちろん、うちの学校にもかっこいい男子はいる。
でもココロは別に恋をしたいと思わない。
手を握ったり、ましてキスされたりしたりしたら、口をゆすぎたくなるだろう。
エッチなんて、なおさら考えられない。
私はそれでいい。
まだ女子高生よ。
2年生。
焦って安売りするより、心の底から好きな人と結ばれたい。
しいて言うなら、二次元恋愛中。
現実的な男子には興味がわかない。
だからジャニーズもジュノンボーイも好きじゃない。
テレビの中のタレントに夢中になる気持ちがわからない。
どうせ、会えるわけじゃなし、まして想いが伝わるわけもない。
「ココロの好きな芸能人って誰?」
この手の質問が一番面倒くさい。
だって別にいないし。
アニメの名前だとオタクっぽく思われるし……。
だからちょっと前まで坂本龍馬って答えてた。
「なんだ、福山雅治、好きなんだ」
そうじゃないって、『龍馬伝』見てないし……。
だから最近は夏目漱石って答えてる。
「渋っ」
みんな、「何それっ?」って感じで呆れてる。
「だって私の名前、夏目ココロだし」
親が夏目漱石の作品から、名前をつけたんだって。
でも夏目漱石ってお札になったことくらいしか知らないけどね。
本当に好きなわけじゃない。
自分はきっとむちゃくちゃ面食いなんだ。
だからその辺のかっこいいじゃ我慢できないのだ。
そう自分を励ましている。
『それから』のココロはと言えば……。
弱小バスケット部の応援をしていた。
そうだ、乃亜と一緒に、日曜日の講堂。
バスケット部の対校試合の応援中。
乃亜は必死で隆平の名を呼んでいる。
「隆平!がんばれ!」
乃亜は、「塚越隆平」の文字の入った手作りの垂れ幕を掲げ、メガホンで応援してる。
すごい、すごすぎる。
まだ話したこともないのに、名前を呼び捨て。
成功率100%。
その数字の秘密がここにある。
誰だって、気になるに決まってる。
見ず知らずの素敵女子が、自分の名前を呼び捨てにしてるのだ。
誰だろうって思わない男子はいないでしょ。
よっぽどの草食系か、ボーイズラブの男子くらいだよ。
真面目で堅物でもこれだけ押しが強かったら、きっ
と落ちるって。
さすが、乃亜。
ココロは乃亜に拍手を送りたい。
隆平はチラチラと乃亜を見てる。
ボールがまわってきても、すぐにボールを奪われてしまう。
ボールをはじかれて、オタオタしてる。
ドリブルだって、不恰好。
チョー、ヘタくそ。
それも飛びっきりのドンくささ。
乃亜は何であんなのがいいんだろう。
ココロの理解を超えていた。
補欠にならないのが不思議だ。
まあ、部員がいないせいもあるだろう。
にしたって、ヘタすぎるでしょ。
対抗戦の相手もがっかりするぐらいの弱小チーム。
そんなチームを必死で応援している乃亜って、何。
こんなに可愛い子が、こんな弱っちいチームを応援すりゃ、相手のチームだって驚くでしょ。
相手のチームは少しでも乃亜にいいところを見せようと、スタンドプレーを繰り出してる。
みんな、乃亜目当てじゃない。
なのに乃亜ったら、あんなダサダサ男子のどこがいいの。
隆平のやつ、前を塞がれて身動き取れなくなってる。
せっぱつまっての大遠投。
ぜんぜんリングまで届かないじゃない。
ダサすぎ。
かっこ悪い。
ガードされて、ダブルドリブル。
挙句は遠投。
これが漫画かなんかなら、3ポイントシュートになるところよ。
でも球は届かない。
かっこ悪い。
こんなヘッポコゲームって、実際あるんだ。
試合は100点以上の大差がついた。
ドラマやアニメじゃ、絶対に見られないくそゲーム。
どうしてこんな試合を、相手のチームは受けてくれるのだろう。
弱いにもほどがある。
これじゃ、女子と戦ったって、きっと負ける。
「どうして相手のチームがこの試合をうけるかって?」
乃亜はココロの疑問にあっさり答えてくれた。
「それは隼人がいるからよ」
「隼人?!」
そうか、そうだったのか。
相手のチームは全国区の『宇津木隼人』の名前に惹かれてるのだ。
隼人とゲームができるなら。
そう思って、試合をしにわざわざ遠征してくるのだ。
「で、隼人は試合には出てない……」
すごい詐欺だ。
ココロは相手チームが気の毒になった。
「ひどくない?」
「ひどいよね」
こんなに弱いって分かってたら、わざわざ遠征してこないよ。
「でも関係なくない。勘違いした相手が悪いんだって」
「それってないでしょ……、ありえないって」
隼人目当てに県外からも遠征してきているのに。
「確かにそうね」
乃亜が急に考え込んだ。
そして何か決意したかのようにうなづいた。
「そしたら隆平も喜ぶよね」
幼馴染だから分かる。
乃亜は何か企んでるって。