第2章 恋せよ乙女
「わたしさ」
乃亜の目がキラキラしてる。
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!
ついに乃亜に出会いが訪れたのね。
「恋しちゃった」
乃亜が照れながらそう囁いた。
キタ━゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜━ ッ!
私もやっとダイエットできる。
ココロは乃亜と抱き合って喜んだ。
60キロと55キロのハグ。
そう、ココロも激太り。
「現在体重55トン。怪獣図鑑に載りそう」
自虐ギャグを呟いても、乃亜は上の空。
恋に心奪われ、心ここにあらず。
ココロのギャグはスルーされ、一人苦笑い。
それでも気持ちはHAPPY('-^*)/
乃亜は、YUIの「CHE.R.RY」を口ずさむ。
「♪~恋しちゃったんだ、多分、気づいてないでしょう?」
ついにダイエット解禁よ。
乃亜の過酷で華麗なるダイエットが始まった。
どうせ、すぐに恋するんだから、失恋してもやけ食いしなきゃいいのに。
いつもそう思う。
そうすればココロだって、被害をこうむる事はないのだ。
「もう、2日も水だけしか飲んでないわ」
乃亜はフラフラの足取りで、力なくそう言った。
「大丈夫?」
まあ、この言葉も社交辞令だ。
これで乃亜はいつも平気なのだ。
気持ちが高揚してるから、ぜんぜん大丈夫なのだ。
いつだってフラフラになりながら、蝶のようにうまれかわる。
ダイエット中の乃亜の愛読書は、決まって『あしたのジョー』だ。
「ボクサーみたいじゃない。ダイエットする姿って」
登場人物の力石徹になりきるらしい。
でもココロは「あしたのジョー」に詳しくない。
「漫画の中じゃ、力石徹ってボクサーが、水も飲まずガリガリになるんだけど……」
ココロのあしたのジョーの知識はすべて乃亜だ。
まあ、乃亜には力石徹は、渡辺徹らしい。
実はココロには渡辺徹もいまいちピーンと来ない。
「まいうーとか言ってる人?」
「違う、違う、榊原郁恵の旦那よ」
「???」
「イメージは、あのデブタレの渡辺徹が、華麗なるダイエットをするのよ」
乃亜に漫画のあしたのジョーを借りたことがあるが、まだ全部読んでない。
だから力石徹も渡辺徹も今一つピーンと来ない。
「もっと新しい漫画読みなよ」
『あしたのジョー』は、パパの愛読書らしいけど……。
「はじめの一歩じゃダメなわけ?」
「『はじめの一歩』は絶対ダメ」
「どうして?」
「だって、主人公の名前が幕の内よ」
「まさか……」
「弁当、思い出すでしょ」
「やっぱ、そんな理由か」
「ダイエットは気合なのよ。気持ちが折れるようなことは一切NGよ」
「恋は命がけよ。命をかけれない恋愛なんて、恋じゃないわ」
「名言ね」
恋をするたびに死にもの狂いね。
「恋は人を詩人に変えるって、ねっ」
乃亜は浮かれてる。
でも詩人というより、廃人だ。
目の周り、クマがすご過ぎる。
まあいつものことだから、気にはしてないけど。
恋をするといつだって、乃亜はアッという間にダイエットに成功する。
「まさに恋の力はミラクルよ」
乃亜は新しい獲物をすでにロックオンしてる。
それより何より、一番の問題は私だ。
私自身が心配なのだ。
乃亜が恋をすると、ココロはいつも落ち込んでしまう。
急に甘い物をやめられる?
私は乃亜が失恋して、いつも共太り。
すっかり乃亜のおかげで体質改善が進んでしまう。
だけど痩せる時は乃亜だけが痩せていく。
私はミニブタのままじゃない。
また、乃亜の引き立て役。
そうよ、乃亜は恋多き女。
しかも美人。
そう、痩せてさえいれば、狙った相手はすぐおちる。
でも美人じゃない私は……。
恋なんて始まりさえしない……。
乃亜のおかげで、体重55キロ。
手遅れ状態。
私は乃亜と違って、背も低い。
ココロは158センチ。
乃亜は165センチ。
だから乃亜より体重を落とさないといけない。
早く40キロ台に戻さなきゃ。
49キロがココロの引いたボーダーライン。
でも甘い誘惑には勝てないわ。
乃亜がダイエットで肌荒れしても、ココロの肌は脂ぎってる。
ダメよ、ダメダメ。
その一口がデブのもと。
わかってるけど、手が伸びる。
ダイエットは明日から始めるよ。
目の前のスイーツを食べていいでしょ。
「ダメよ、ダメダメ」
そう言って乃亜はキスをせまる男の甘い誘いと戦ってるかも。
なのに私は甘いキスの代わりのケーキに攻め落とされる。
ああ、なんて私の欲望は食欲重視なの。
反省。反省。でもいいじゃない。
だって私はスイーツに恋してるんだから。