これからも、それからは……未定である。
はい!間に合いませんでしたw
「才川ってこのスマホゲームやってる?」
牧原は珈琲店に入り、注文するや否や俺にスマホを見せつける。スマホの画面には『スローライフキング』の画面が大きく出ていた。……お前もやってたのかよ!
「……ちょっと前までな。最近は暫くログインしてないな。それがどうした?」
「このゲームさ、めっちゃやり込んでるんだよ私」
牧原は悲しそうな顔でそう語る。奇遇だな、俺もちょっと前までそうだった。
でも、別に悲しい顔をしなくても、誇らしげにしてほいい。俺は満足しているのだから。
「それで私と張り合おうと躍起になっていた奴がいてさ、何回か自分家自慢してたの」
懐かしい思い出だ。
数日前だけど。牧原も俺と同じ様な体験をしてるんだな。
「それがどうなったんだよ?」
「うん……お互いに勝敗がつかなくてさ、向こうが『僕の負けです』って言い出しちゃったの!凄く不完全燃焼でさー!どう思うよ?」
「……あーー」
どう思うも何も、それ俺じゃねぇかよ!!
お前がMAKIかよ!
世間は狭いレベルじゃねぇよ!
日本中でプレイしているゲームの、それも気になるプレイヤーが眼の前で対峙するってどういうことだ、おい!
俺はツッコミを心に留めて、牧原の方を見る。
落ち着いた茶髪に薄めの化粧、高校の時よりかは流石に大人になったが、雰囲気は変わらないものだな、こいつも三十になるんだよな。
「……何見つめてんのよ?」
「ああ!悪い。お前の城には勝てないと思ったんだろ?別に不満に思う点はないだろ」
実際、そう思っている。MAKIの造る城や周りのアイテムの配置の仕方には可憐さがあったのだ。ただ単に課金でアイテムをうめた俺とは違う。
「……実は、向こうから『張り合うの止めません?』ってきてさ、思わず維持を張っちゃたのよー、それでお終いってのがさー……あれ?今城って言わなかった?」
「……あ」
見事なまでにボロが出た、いい歳こいて何やってんだ俺は……。
***
「あんたがSAIだったの?世間が狭いってレベルじゃないでしょ!」
それ、さっき思いました。
「知り合い二人で阿保みたいに課金して張り合ってたの?いい歳こいて何やってんのよ、私達」
ホントですよね。ははっ。
牧原は俺を見て頬を膨らませる。「いい歳こいて何やってんだ」とツッコミしたかったが、思いのほか可愛かった。
「……勝負しなさい」
「……はい?」
「まだ勝負はついてないのよ!ここまで課金させたんだから責任とってよね」
その言い方は、結婚の時に使うもんじゃないのか?課金は自分でやったことだろうに……まあ、いいか。
「わかったよ、白黒つけようか。いい歳いったからこそ譲れないものがある。仕事なんかよりもな」
「……それはどうかと思うけど一理あるわね。じゃあ続行ってことで!」
「はいはい」
「それと……」
「何だよ、口籠って?」
「連絡先教えてよ、こんな阿保やれる奴も、話す相手もいないのよ、この年になると」
「……全く同じだな、俺達。将来、結婚するかもな」
俺が笑顔でそう言うと「それはない」と冷たい表情をされた。……分かってるって。
牧原は「へへ」と笑い、俺と連絡先を交換した。
その後、二人でぶらぶらと買い物を楽しみ、帰路に着き、課金を始めるのだった。
『負けないからな、MAKI!』
『コテンパンにするからねSAI!』
二人のいい歳した大人達の戦いは終わらない。