忍15
伊吹さん逃げてーーー
「伊吹お主は強くなっただが上には上がいる
お前が考えられぬほどな傲慢なるな
そう言う連中からみればお主等
洟垂れ小僧以下じゃ
心せよ里から旅立つ若者よ」
若い伊吹には長老の懸念が届かない
「なにを言っておられます長老?」
首をかしげる伊吹に長老は再度忠告する
「何者にも例外があるものお前が
力に溺れ傲慢になった時
その者はお主の前に現れる超えようの無い
巨大な壁となってな
心するがよい」
長老の言った例外
それがまさかこの人間
伊吹は認められなかったがゆえに
地獄を味わい白目をむく事になる
外で数分も経たぬうちに領域が解除される
慌てて駆け寄ろうとして固まる人々
猫べえの足に踏みつけられ失神している伊吹と
いまだ熱の冷めない猫べえ
勝敗は明らかだった
「何が数分は持てだこのすかたん自分が持たんじゃないか」
この怒りに満ちた声に人々の硬直はあっさりと解け
歓声を上げる
「うおおおすげー一人で団長に勝っちまった」
呆然としたままだったシェルも部下の声で
遅れて歓声を上げる
そして猫べえの術で回復し目を覚ました伊吹は
真っ青な顔ですぐさま土下座をし
猫べえに許しを請う
「すみません思い上がっていましたごめんなさい許してください」
その姿勢のまま動かない伊吹の姿に
頭を掻きながら
「お灸効きすぎたかな」
ぼそりと小声でつぶやくのだった
「まあいいじゃろあれぐらい」
ショーズはにやりと笑って
「前に来られた招かれ人様にコテンパンにやられて
その時剥製にするかと言われたのをまだ幼かった
今の陛下のとりなしで助かった小僧っ子が
それを忘れてお主に噛み付いたんじゃ
いい薬じゃよ」
そう言って笑い出す
「まあ根はいい奴じゃから孫を見下したりせんよ
ま売り言葉に買い言葉
いい経験じゃろなあ伊吹」
ショーズの問いに
土下座のまま
「はい、なかなか試練を突破してくれない部下にイライラが溜まって
いまして元騎士団長兼務宰相閣下には大変の見苦しいところを」
と平謝りの伊吹
シェルが最初に気がついてショーズに尋ねる
「ねえおじいちゃん私おじいちゃんが騎士団長だったのは
父さんたちから聞かされてるけど兼務宰相だったなんて
初耳なんだけど」
「お前聞いてなかったのかなら仕方ないか
連中はお前が宰相閣下の指示で動いているんじゃないかと
戦々恐々なんだよ派手にやられたからな閣下は」
「ちょっと待てそれは秘密だと約束したではないか」
慌てて伊吹を止めようとするショーズ
「20歳の若さで抜擢されて周りのやっかみをものともせず
領民を監禁していた領主を皮切りに
そして他国に内通してこの国を危機に陥らせた
筆頭公爵の逮捕
この国において閣下を知らぬものはいないほどだった
王家に愛想つかされて職を辞するとき
執務室から出口まで見送りの列が並んだことは
その当時を知るものにとっては
今でも語り草だよ」
伊吹の言葉に恥ずかしさで真っ赤になるショーズ
「それに末姫であらせられたお方様との愛の為
戦場に三度赴き傷ひとつ無く敵を殲滅された
恋に憧れる
お前ぐらいの年頃の娘なら
聞いたことはあるだろう」
「もしかしてそれって・・・」
「ああ何度も芝居にもなってる有名な台詞が
「われ愛の為
汝らを討つことを許したまえ
愛がゆえに
強くあることを許したまえ」
だったか」
頭を抱えるシェル
「べたべたの恋愛劇の主人公がこれですか?」
祖父を指差し泣き出しそうなシェル
「祖父にこれとはなんじゃ」
「ええだってあれそうだとすると・・・・」
シェルの頭にドワーフ並みの樽型体形の祖母の姿が思い浮かぶ
「あいつだって若い頃はスリムで今のお前そっくりだったんじゃよ」
その言葉が止めを刺す
「ふふ私は絶対太らない同じ道はたどらないんだから」
そう絶叫するのだった
なお報告した二人が国王から
「まあそうだよねてすうをかけさせて悪かったね」
そう言われてほっとしたのは別の話であろう
乙女の夢
ガシャン
壊れる