観覧車
どうしてこんな事になってしまったのだろう。ぼくは彼女に振り回されるかのように、後を追う。
太陽が空を赤く染めながら、その姿を徐々に山の峰の向こうに沈んでいく。長い長い影が地面に散らばる。
かつてはたくさんの人で賑わったであろう裏野ドリームランド。
閉園からずいぶん放置されているとは小耳に挟んだことがあったけど、まさか自分がここに忍び込むことになろうとは……
もうずいぶん歩いた。
彼女は聞いた数々の噂を確かめたいと、次々と朽ちてぼろぼろのアトラクションを回った。
海底ハンターを謳い文句にしていたアクアツアーは、展示物のほとんどが壊れ、出口付近にかろうじて当時の面影が残っていた。だが、噂の影は現れなかった。
メリーゴーランドは、木馬はすべてなくなり、屋根の形でようやくメリーゴーランドだったと、わかる程度だった。
ミラーハウスの鏡は割れ、壁も幾つか崩れ、中を探検することは叶わなかった。
ジェットコースターに至っては、大きな支柱側にかつてのコースが落下しており、近づかないほうが賢明だと判断した。
アトラクションを一つめぐるたびに、彼女の怖いものみたさの欲望が、どんどん削られていくのが手に取るようにわかった。
そろそろここを出よう。ぼくは彼女にそう言った。彼女は、あれを見てからと、園内を見渡す小高い丘にそびえる観覧車を指差した。
ぼくと彼女は無言で、その丘に向かって歩いた。遠くからみて、形が崩れてはいないように見えた観覧車も、近くによるとあちこち朽ちているのがわかった。
と、声が聞こえた。彼女に何か言ったかとたずねたら、首をかしげるばかり。もういいだろう? と、たずねたら、彼女の声とは違う声が聞こえた。タスケテと……
ぼくはあたりを見渡した。ぼく達以外に人影はない。彼女に帰ろう。と、声をかけた。その時はっきり聞こえたんだ。彼女の耳にも助けてと。
首回りが一気に錆び付いた感覚を感じながら、ぼく達は声をした方を見てしまった。そしてそこには……
彼女の甲高い悲鳴。後退りして、一気に走る。慌ててぼくも走る。
なんだあれは!
ぼく達は後ろを振り返りもせず走り、園の外へと飛び出した。
大通りへと走りちょうどやって来たタクシーを止め、近くの駅に向かうように言った。
ぼく達は思わず息をはいた。
お互いに沈黙し、ただ一刻も早く遠くに行ってしまいたい。と、思うばかりだった。
タクシーが駅に滑り込み止まった。
金額を告げられ札を出した。と、振り返った顔は観覧車の中で助けを求めていたモノとまったく同じで……