ジェットコースター
おい、頼むよ。もう、裏野ドリームランドの話は聞きたくない。あの、ジェットコースターの事故を知らないから、奇妙な出来事という言葉で片付けられるのだから。
マスター、すまない。今日はもう帰ることにするよ。
私は半分ほど水割りを残し、怪訝そうに見送るマスターに背中を向けて店を出た。
店を出て、ふらふらと歩きながら、耳に入ってきた裏野ドリームランドの奇妙な出来事の話を振り払おうとした。
赤いランプがくるくる廻っているのを目にしたとたん、わたくしは目眩に近い間隔を覚え、その場にうずくまった。
脂汗が一気に流れ落ちる。と、同時に記憶ごと消してしまいたいあの裏野ドリームランドでの事故が、まるで昨日のことのようによみがえってきた。
――そう、あれは警察官になって五年目の事だった。通報が入り、私達は裏野ドリームランドへと向かった。
裏野ドリームランドからは、よく不審進入だの、万引きだの、幼児行方不明だのとの通達がよくかかったが、この日は指令が出たとたん、冷たい汗が背中を伝った。
ジェットコースターで事故がおこり、負傷者が複数出て、私達が着いたときには、救急車も次から次へとサイレンを鳴らして遊園地に集結しているところだった。
裏野ドリームランドは、地獄絵図と化していた。
私達はその事故現場へと走り、群がる人々をジェットコースターから遠ざけ、園の外へと誘導した。
そんな中、梯子車が何台か駆けつけ、ジェットコースターから、一人、また一人と救助されていていくのが遠目でも見えた。
ジェットコースターに乗っていた全員が、なんらかの怪我を負い、死者が出なかったのがおかしくないほどの惨劇だった。
当然、事故の調査が行われたが、その事故がどのようにおこり、どうして多数の負傷者が出たのか、結局解明できなかったと聞く。
君にはわかるか?
ジェットコースターの側面すべてに擦るような跡が、どのようにして出来たのかのを解明できるかい?
裏野ドリームランドは、その事故がきっかけで閉園したと言われているが、実際は、その事故後もしばらくは営業していたそうじゃないか。
死者が出なかったのは不幸中の幸いだったが、その事故で一番重症だった方が、怪我の回復が見込めないという絶望から、己の命を自ら絶ったと風の便りに聞いた。
――だから頼む。裏野ドリームランドでの話題を聞かさないでおくれ。
そのたびに、私はあの惨劇の中に戻されるのだから。




