表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏野ドリームランド  作者: 大西洋子
3/6

メリーゴーランド


 お客様、閉園した遊園地に、それもいろいろ曰く付きの遊園地に忍び込むというのは……


 まあ、わたくし自身も忍び込んだことがある口だから、なんとも言えないですが。


 ああ、そのカクテルはサービスですよ。裏野ドリームランドで奇妙な出来事に遭遇した仲間としてですよ。


 どんな出来事かと?


 それはまだわたくしが今のあなたくらいの歳で、役者を目指していた頃のことです。


 わたくしは、度胸を鍛えるために、また、日頃の金銭を稼ぐために、土日祭日を中心に裏野ドリームランドでアルバイトをしていましてね。役者を目指しているならと、子ども向けの小さなショーのアシスタントをさせていただいていました。


 おかげでほら、今でもちょっとした手品やジャグリングは、役にたっています。


 そんなショーのない時は、メリーゴーランド側のフードコートで、かき氷やジュースなどを販売のお手伝いをしていたのですが、誰も乗っていないメリーゴーランドが勝手に廻ることが時折おこり、始めは驚いたのですが、いつの間にかその現象に慣れっこになってしまいました。


 そのメリーゴーランドで、もっとも奇妙な出来事を目の当たりにしたのは、わたくしが役者への道をあきらめ、最後のアルバイトを終えた日のことでした。


 気のあった仲間と送別会的な飲食をし、数日後には引き払うことになっていたアパートに向かって歩いている途中で、わたくしは裏野ドリームランドに私物を置きぱなしにしていることを思い出したのです。


 翌朝取りに行けばいいのに、わたくしはめんどくさったのか、静まり返った裏野ドリームランドに忍び込むことを選びました。


 当時から、裏野ドリームランドの警備がゆるゆるなのは、よく知られており、その時も入口付近で中高生くらいの子どもが、たむろしているのが見えました。


 わたくしは、そんな彼らの影になるあたりから、園内に忍び込み、携帯電話をライト代りに、従業員専用の建物に難なく進入し、目的の物を回収しました。


 目的の物を肩にかけ、今来た道を戻ろうとしたとき、メリーゴーランドに灯りが灯っていることに気がつきました。


 先程目にした若者達が、勝手に電源を入れたのかと考えながら、そちらの方へ歩き出しました。


 灯りの中心にはメリーゴーランドがあり、灯りはそのメリーゴーランドから発せられていました。


 そのメリーゴーランドを取り巻くように園内のあちらこちらに散らばるキャラクター達が集っていました。


 軽やかで楽しげな聞きなれた音楽に合わせて踊ったり、メリーゴーランドに乗って遊ぶキャラクター達に、怖いという感情が吹き飛ぶ程の美しさに、わたくしの足が止まりました。


 そんなわたくしを見つけた小さなキャラクター達が、わたくしの腕を引っ張り、ジャグリングをせびりました。


 ええ、そのリクエストに答えて、取りに来た荷物から道具を取り出し、いくつかのジャグリングを披露しました。


 休憩をはさみながら、何度もしました。


 気がつくと空は白み初めて、キャラクター達は惜しむような素振りをしながら、元の場所へと戻って行ったのです。


 わたくしが我に返ったのは、朝一番に園にやって来た管理人に声をかけられた時です。


 ええ、叱られましたとも。でも、わたくしが体験したことを話すと、その方も若い頃に同じような体験をしたとのことでした。


 あの幻想的な出来事は、今でも瞼の奥に焼き付いていて、時間が出来ると、この店の室内のオブジェとして制作したり、描いて飾ったりしていますよ。


 あの出来事、本当に合ったのか確かめたいかって?


 試したいのは山々ですが、あの光景が霞むようなことはしたくないですね。


 ああ、でも一つだけ確かめたいことはあります。


 あのメリーゴーランド、実は電飾は一つもついていないのですよ。わたくしが見た灯りは一体何だったのでしょうね。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ