プロローグ
「小夜さん僕と結婚してください!」
地方の高級ホテルのレストランに僕たちは居る。僕の名前は柳幸志と言います。
僕は今緊張の真っ只中だ、目の前には僕のフィアンセ(仮)の五條小夜さん、黒髪ロングの優しい微笑みを見せている可愛い娘だ。
ちょっと顔が赤い気がする、さっき僕が決心するために頼んだ赤ワインの所為では無いと思いたい。
視界はクリア、寧ろ演出が過ぎるんじゃ無いかと思うくらいスポットライトを浴びている。
プロポーズする前は緊張でガチガチだった僕だけど、言ってしまったらちょっと落ち着いた。
時間にして告白してから1分も経ってないんだろうけど、僕の中では何十分にも感じてる。
やっぱり緊張して無いなんて嘘なのかもね(笑)
でも、ちょっと暗めのレストランでひっそりと過ごすつもりだったのに何でこんなに明るいんだろう。
天井をチラッと見上げてみた…
えっ⁉︎光源が無い‼︎
「幸志さん…ありがとう…わt」
勝手に動揺していた中小夜さんから返事がもらえそうだった
そう、貰えそうだったんだ…
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おもえば遠くに来たもんだ…
あの日から俺の心には鳴り止まない風音が響いてる
ヒュォーーーーゥーーー・・・
きっと何かが抜け落ちてるんだろうな…
俺の名前はコージー、この世界で植物学者をやっている見た目枯れ果てた系のオッサンだ。
今は大陸西岸にあるマッサラ砂漠に生える植物の調査に来ている。
いやはや疲れた、さすが砂漠緑少ないな…。
調査は難航している、俺が探しているのは何でも治すと言われる植物の根。
紅い実をつけるこのマッサラ砂漠にしか生えない固有種だ、紅い実を付けるとしか情報が無い。緑すら少ないのに紅い実だと!?見つかるわけがねえ!
マッサラ砂漠に来る前は大陸の中央にあるメッス湖に居た、そこの湖では魚に擬態した新種の湖藻類を見つけ、調査してみたものの特別な効果は無かった。
紅い実を付ける植物の情報はその湖のヌシに聞いた。
なんつーか変わったヤツだった。
「ッ!!アッアナタ様は、、まままままま…」
最初に会った時に名乗ったらコレだ。
ナマズが魔獣化したヤツだ。
何かと勘違いしてるみたいだったけど訂正するのも面倒くさいのでテキトーに調子あわせてたら俺に必要そうな情報くれたんだった。
「マッサラ砂漠にどんな状態異常も塗るだけで治す草があるそうなのじゃ、その草はマッサラの秘宝と呼ばれ一年に一度夜露に濡れる時間帯にのみ砂の上に紅い実を結ぶらしいのじゃ
コージー様が探し求めているものに近いと思いますじゃ」
世界各地を放浪している俺だが、各地を代表する魔獣は何故か俺に協力的だ、まぁ気にしたことは無いがな。
マッサラ砂漠に着いて2日程経過したが相変わらず見つけられない、時間は無限にある俺だからどうでも良いんだが、良い加減飽きてきたし本腰をいれよう。
「ハァ、…植物探しも楽しいのだが、こうも植物自体がないとはな」
たまにゃラクするかな
おもむろに右手の人差し指と中指を地面に突き刺す
・・・≪魔力解放≫・・・≪探知≫
近くにはねぇか…
別の場所を探すかぁ
数少ない持ち物から木材で出来た笛のような物を取り出し
「ピュィィィイー!、おいでシャル!」
「クルルルル!」
大空から緑の鮮やかな羽を羽ばたかせて一羽の大きな鳥が現れた
「シャル、ここには無さそうだからもうちょっと西に行こうかな。乗せてってくれるかい?」
「キュイ!クルル」
コクッと頷き背を落とす
「ありがとう」
シャルは俺が50年以上前に拾った大姫鶯の亜種だ
俺の多くはない旅の仲間だ、こいつの他にも何人か居るが、またおいおい紹介したいと思う
「さぁ!シャル行こう!!」
コージーが立ち去った後の赤茶けた大地には、一面に薄っすら緑が生えていた
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心はスレたけど、見た目はこの世界に生まれてからそれほど変わってはいない。それほどな。
何十年何百年と人の住む街に入っていないため容姿に拘ることは止めた。
髪はボサボサで伸びきっていて服はボロボロ、所々破れていてマントのように見えなくも無い。
あの日、小夜さんと俺はこの世界に渡った。
スポットライトのような白い魔方陣に乗って…
この世界【クリオス】に着いた時、俺たちは何が起きたのかわからず、おどろおどろしい城の玉座の前で震えていた。
部屋の明かりは何か青白いものが浮かんで光っていた。
目の前にある玉座と思われるものには踏ん反り返る髭もじゃのジジイがいた。
部屋の中には多数の人間。
ジジイは傲岸不遜に言い放った。
「魔王を討ち果たすため其方等を召喚した、其方等の内、強大なチカラを持っているのは…」
「その男のようです」
なんか杖を持った性別不明のローブ姿のヤツが僕をさしてた。
「其方(俺)じゃの!其方には勇者の称号をあたえる!しっかりと働くのじゃぞ!
モチロンくだらん異世界から召喚してやった儂に感謝しての」
ハァ!!!!?
あまりの事に返事を弄していると
「ついでに着いてきおったこの小娘は其方の知り合いか?」
俺は不安に思い、小夜を後ろ手でかばった…
でも、無駄だった。
「その反応を見るだけで充分じゃ、さっきの反抗的な視線から儂も非情にならなければならないようだの」
と言い、何やら聞きなれない言葉を紡ぎ出した。
「$%☆€#・$##!」
今にして思えば、あれは禁呪なんだろうな…小夜は足元から生えてくる氷のクリスタルのようなものに封じ込められてしまった。
「小夜!!小夜っ大丈夫か!?」
反応は無い。
「ふむ、小娘も綺麗な鑑賞物になれて良かったの、死にもしない老けもしない綺麗な彫像よ…兵士よ廊下に飾っておけ!!」
「「「「「ハッ!」」」」」
「小夜!やめろ!小夜に近づくな‼︎‼︎」
抵抗して小夜に抱きついたものの、多数の兵士に剥がされ、蹴られ、殴られた。
「さて、其方には魔王を討伐したさいの褒賞を決めておこう、エリクシールだ
エリクシールがあれば、あの氷のクリスタルも解呪できるぞい」ワァッハッハッハッ
くそぅ、くそぅ、くそぅ、クソクソクソクソ…小夜ァ…
あの日、俺は僕から俺になった。