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光のもとでⅠ 第十四章 三叉路  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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30~45 Side Akito 03話

 くそじじー……。

 思いながら着信履歴からじーさんの番号を呼び出す。

 携帯はすぐにつながった。

『なんじゃ』

「なんじゃ、じゃないですよ。何をするつもりですか?」

『どこまで察しがついたかの?』

「……ファイルを使って司に揺さぶりをかけるつもりでしょう?」

 返事はない。

「それを見せれば雅がどんな人生を歩んできたのかが一通りわかります。今の司なら状況分析以外のこともできる。雅がどれほど長い間苦しんでいたのかを察することはできるでしょう。……じーさんはそれを予測したうえで、越谷まりあと雅がつながっているかもしれないと話すつもりでは? ――越谷まりあだけなら学園警備の指揮権を与える必要はない。が、雅が関われば別だ、ということを指揮権を与えることで示唆する。……まるで采配力を見せてみろ、とでも言うように」

『くっくっく……おまえはわしの孫じゃのぉ』

 何当たり前のこといってるんだか……。

「で? じーさんの本当の目的は? 采配力ではないでしょう? 司の采配ならシミュレーションゲームで実際に対戦されたじーさんは十分理解しているはずです」

『のぉ、秋斗よ……人は感情が絡んだうえで同じように采配を揮うことができるものかの? たとえ、千通り以上ものパターンをゲームでクリアしていようと、生身の人間に敵うものはあるのかの? 現場にアクシデントはつきものじゃろうて』

 その一言にやっぱり、と思う。

「司に一番影響力があるのは彼女、ですよね」

『あぁ、あのお嬢さんは実にいい子じゃ。さすが、城井のお嬢さんの娘さんじゃの。秋斗にも司にも、感情そのものを教えてくれておる』

「それで十分じゃありませんか? あえて波風立てる必要はないかと思います」

『秋斗よ、これも課題じゃ。静も同じような道を通ってきておる。うちの一族、次期会長と呼ばれる人間は誰もがな。しかし、こればかりは執着するものが現れない限りどうにもできんでの。……もっとも、司があのように育たねば次期会長の推薦などされなかったじゃろうて。推薦さえされなければこんなことをする必要もなかったんじゃがの』

 じーさんの言葉が重く重く圧し掛かる。

「司があのように育たねば」――それは俺の近くにいたからほかならない。

 司の人格形成に自分が深く関わっていることは自覚している。

 そのせいで「今」があるのだとしたら――いや、あったとしても……。

「彼女を巻き込むのはやめてもらいたい」

『聞けぬ相談じゃの。お嬢さん抜きでは話が進まぬわ』

「うちの事情で彼女を混乱させるのはやめてほしい」

『それは司しだいじゃろうて。わしはなんの制約も設けぬ。お嬢さんに事情を話し、協力体制を築くもよし。すべて伏せてトラブル回避するもよし。何を言うつもりもなかろうて。……じゃが、雅の話によると佐々木の姪はかなり居丈高なようでの。もちろん、雅の前ではしおらしいようじゃが』

「っ!? じーさん、雅に何をっ!?」

『なぁに、越谷まりあという人物について情報をもらっておる程度じゃ』

 この人はっ――。

『雅には越谷まりあが動くよう、少々誘導してもらっておる。近いうちに行動を起こすじゃろう』

「っ……」

『秋斗よ、何かが起きることは決まっておるのじゃ』

 やはり、あらかじめ舞台とシナリオが用意されていた。

『秋斗ならわかるんじゃないかの? 司がどういった行動に出るのか』

 司がどういう行動にでるのか……?

『数分やろう。今、この場で考えてみよ。それを秋斗への課題とする』

 俺は司に与えられた情報だけを元に考える。

 まず、情報から考えられる状況すべてをリストアップする。

 必要箇所に駒を置き、何が起こってもすぐに対処できるよう専属警護班は学園内に入れ、別口で越谷まりあの監視を徹底させる。

 与えられた権限は学園内のみだが、越谷まりあとつながりがある以上、雅のことは念頭に置く必要がある。

 肝心の越谷まりあ――これに関する情報は現時点で佐々木の姪ということくらい。

 じーさんが今回の件にまつわる話をしたとしても、本人の情報はかなり乏しい。

 たかが一生徒。警護依頼のない人間の情報など警備会社にあるはずもない。

 彼女の情報を持っているのは学園の生徒――生徒会の人間か風紀委員あたりに情報を求めるのが手っ取り早いだろう。

 自分が越谷の元へ出向き釘を刺す、という手もがあるが、俺も司もその方法は選ばない。

 俺たちなら、大切なものに手を出されたら倍返し。

 あとには引けない状況を作り出し、退学になるよう仕向けるだろう。

 ほか、催眠術がかけられていると想定すれば、履行されるタイミングについても考える。

 何がきっかけとなるのか、どんな暗示がかけられているのか。

 雅に問い質したところで無駄足に終わるのがオチ。

 むしろ、推測だけで動けば自分の足元を掬われる。

 名誉毀損で訴えられる恐れがある。

 ならば、相手の感情を刺激するように己が動くのみ。

 何かが起こるならとっとと終わらせたいと考える。

 渦中の彼女には話すだろうか……?

 答えは否。

 何も知らないところで片付けたい。

 事、記憶が戻ったばかりの彼女に負担はかけたくない。

 もっと言うなら、身から出た錆とも言えるようなうちの事情に巻き込むことを悟られたくはない。

 自分たちに関わることを選んでくれた彼女であったとしても、できることなら何も知らせずに――。

 ここまで考えて、ふと思う。

 何も知らぬままにすべてを終えることができるのか、と。

 ケースバイケースではある。が、この場合、越谷まりあが「何かをしたとき」に初めて取り押さえることができる。

 証拠や証人を伴って厳罰を仰ぐ、という状況にするのなら、ターゲットにされている翠葉ちゃんにトラブルが起こることは必須。

 彼女が何も気づかないわけがない。

 何も知らないで済むわけがない。けれど、断片的に説明することで切り抜けることは可能。

 すべてを話す必要はない。現に、彼女は警護班がすり替えられていたことなど知らないのだから。

『答えは出たかの?』

「出ることには出ましたが……」

『さて、どうするかの?』

「彼女には話さず対応しますが、すべてを隠すことは無理でしょう。じーさんの話を聞いた時点で越谷まりあが何か事を起こせば徹底して排除することを考える。つまり、校則、もしくは法に触れるような直接的被害が出ることを前提に考えます。そして、その『被害』はほかの誰でもない彼女に降りかかるはずですから、いずれにせよ彼女が何も知らずに済むことはない。それなら、事後報告で断片的に説明すればいい。全容を話す必要はない」

 滞りなく話せたと思った。が、返された言葉は、

『静とは違うルートじゃの』

「え?」

『お嬢さんはわしらに関わることを選んでくれたんじゃろ? そのお嬢さんにそこまで隠し立てするのは何ゆえじゃ? 静は迷わず話したわ。そのうえで城井のお嬢さんは惜しみなく協力してくれたがの。それは今も変わらんじゃろうて』

 俺は愕然とした。

 彼女にすべてを話す、という選択は一度として考えなかったからだ。

『お嬢さんは受け入れてくれたというのに、肝心のおぬしらが排除してどうするんじゃ。……これではもう一度お嬢さんに選択してもらわねばならんのぉ……。こんな孫たちじゃがどうするか、と。秋斗がその選択ならば司も同じじゃろうて……』

 俺は何を言うこともできなかった。

 じーさんが言っていることは正しい。

 翠葉ちゃんは俺たちと関わることを選んでくれたのに、肝心の俺たちは彼女を蚊帳の外に置こうとする。

 きっと司も同じように考えるだろう。

 彼女から危険を遠ざけるために。

 しかし、果たしてそれが本当に危険から遠ざけることになるのか、と問われれば疑問は残る。

 開示して、危機感を持ってくれたほうがいいこともあるだろう。

『お嬢さんが初めて感じる「危機」にしてはちょうどいい規模だと思ったんじゃがのぉ……』

「っ……」

『秋斗、わかったら口出しはするでないぞ』

 先ほどと同じように、通話は一方的に切られた。


「秋斗様、顔色が悪いですよ」

 その場にいた蔵元に声をかけられる。

「あぁ、そうかもしれない……」

「会長の思惑はおわかりになったのでしょう?」

「わかった……。わかったけど――俺、ダメ出し食らったわ」

「は……?」

 怪訝が顔をする蔵元に頼む。

「お願い……もう、今日は車の運転もしたくない。蔵元、マンションまで送って」

「わがまま病ですか? ま、運転くらいかまいませんが……」

「でさ、明日休みにしてあげるから、うちに泊まろうよ」

「はっ!? 何言ってるんですか。頭の動きが悪いようでしたら脳に油でもさしますが? ……こんなに仕事が溜まっているというのに明日を休みにするとかあり得ませんから。今日は休まれたらどうですか、っていうのは本日限りの温情ですよ?」

「鬼ぃ……っていうかさ、いいじゃん。一日くらい付き合ってよ。――わかった、夕飯食べるところまででもいいから」

 妥協案を提示すると、蔵元からも妥協案が提示された。

「今の会長とのお話をうかがえるのでしたら呑みましょう?」

 ただし夕飯まで、と釘を刺される。

 俺はそれを呑んだ。

 もともと蔵元には話すつもりでいたんだ……。


 蔵元には車の中でじーさんの思惑なるものを話した。

「なるほど。あの短時間でそこまで考えさせられ、さらには及第点ももらえず、ですか」

 痛いところをつかれる。

「静様の選択は見事ですね。城井、というのは翠葉お嬢様のお母様、碧様のことでしょう? 碧様の気質を踏まえてそういう行動に出られたのか、話せるだけの信頼関係が築けていたのか」

「信頼関係、か……」

 俺は翠葉ちゃんとどんな関係を築けているのだろうか……。

 考えてみても明確なものは見つからない。

 蔵元や唯、蒼樹とは仕事を通して「信頼関係」を築くことができた。が、彼女とは何をもってしてその関係が築けるのか……。


 マンションに着きノートパソコンを立ち上げると、メールが何通か届いていた。

 そのうちの一通、一番新しいメールはじーさんからのもの。

 ディスプレイを前に固まっていると、

「どうしました?」

 蔵元に訊かれる。

 俺がまじまじと見ているディスプレイに視線をやり、カラリと言った。

「あぁ、会長からメールじゃないですか。しかも、何か添付ファイルついてますよ」

 蔵元の言葉を訊きながら、俺はそのファイルを注視していた。

「とっとと確認したらどうですか?」

 蔵元は慣れた様子でダイニングのテーブルに持ち帰ってきた仕事を広げ始める。

「これ、見るの怖い……。蔵元代わりに見てよ」

「秋斗様……こういうことのために私を連行したんじゃないでしょうね?」

「それ以外に何があるのか教えてもらえる? だって、こんなの俺の胃がもたないってばっ」

「……私の胃の保安状況をご確認申し上げたいのですが」

 バカな言い合いとはわかっていつつも、ひとりでいるよりは良かった。

 渋々メールを開く。と、添付されていたファイルは音声ファイル。

「何、じーさんメール打つのも面倒になっちゃったわけ?」

 少し気の抜けた状態でファイルの再生を始めると、

『これから司が来よるわ。どんな話をしたかだけ教えてやろうと思っての。司はすぐにでも動くじゃろう。それに対応するのは秋斗、おまえじゃ』

 その言葉の直後、司が庵を訪れた。

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