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光のもとでⅠ 第十四章 三叉路  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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20~26 Side Akito 02話

 社長室には日下部人事部長と日比野人事副部長が揃っていた。

 深刻な表情をしたふたりの向こうには大きな椅子に身を預けた父さんがいる。

「静くんに人選ミスじゃないかと指摘されたよ」

 父さんの言葉に、そう言われても仕方ないのでは、と思う。

 だが、今回の人選ミスはどうしたことか――。

 この切れ者ふたりがあんな人選ミスをするとは思いがたい。

「何があったんですか」

「秋斗様、先にこちらのファイルをご覧ください」

 日比野さんに手渡されたファイルには、自分が推薦しようと思っていた警備員の名前が並んでいた。

 藤守武継を始めとするほか九名。

 その中には先日昇格したばかりの武明と武政の名前もある。

「これは……?」

「私と日比野が選考していた人間です」

「……今配置についている人間とは違うようですが」

「はい。これで差し支えないようでしたら、今すぐ配置につかせます」

「問題ありません」

 日下部部長はひとつ頷き、「失礼します」と携帯を手に取り辞令を下した。


 社長室で事のあらましを聞いたあと、俺と蔵元はホテルへ向かった。

 珍しいことに、唯はホテルのバーラウンジにいるという。そして、その場には蒼樹のほかにふたり、見知った顔が揃っていた。

「わ、秋斗先輩変わらないですねっ!」

 声をかけてきたのは鈴代環すずしろたまき

 もうひとりの後輩、高崎葵はにこにこしながらグラスを傾けていた。

「あぁ、久しぶりだな」

「先輩も一緒に飲みませんか?」

「今日は仕事がある。蒼樹、悪いが唯を借りる」

「あ、はい……」

 蒼樹のぽかんとした顔に見送られ、俺たちは無言で三十九階の部屋へと移動した。

「どうしたんです? 怖い顔をして」

 俺はさっき聞いたばかりの情報を唯に伝える。

「翠葉ちゃんの警護につく人間がすり替えられていた」

「え……?」

「日下部部長と日比野副部長が選考した人物とは違う人間が配置についていた」

「それ、どういう――」

「内部にネズミがいる」

 本社勤務につくふたりは選考に則った人間だった。

 だが、実際彼女につく警備員たちはうちの社員ではあるものの、選考された人間ではなかった。

 彼女が駅構内に入ったあたりで副部長がその事実に気づき、すぐにS職管理部への確認をしたという。

 そこで、オーダーした警備員ではない人間が配属されていることが発覚したとのことだった。

「少し納得……。警護班の人間、リィの体調のこと何も知らなかった」

「おまえもだ。翠葉お嬢様が接触した人間が木田氏と気づくまでに時間がかかりすぎだ。秋斗様、減俸処分でかまいませんね」

 俺はこんな状況にも関わらず、少しの笑みを漏らす。

「蔵元に任せるよ」

「え゛……」

「それが嫌ならネズミ退治を手伝え」

 蔵元はすぐにノートパソコンを立ち上げ作業に取り掛かる。

 オーダーシートをすり替えた人間はS職管理部にいる人間の誰か……。

「リィクラスだと、オーダーシートは機械通しませんよね?」

「あぁ、すべて紙面で部長から部長へと手渡しになる」

「生身の人間やアナログな手管って俺の得意分野じゃないんだけどなぁ……」

 蔵元がじろり、と唯を睨む。

「スミマセン。全力でガンバリマス」

「いや、そこはいい。唯は雅についていたS職警備員から洗ってくれ」

 俺の言葉に唯がはっとした顔をした。

「そっか……あの人、今は軟禁中だけどS職の人間は接触可能か」

「……一要素として懸念はしているが、それが本筋だとは思っていない。雅が黒幕なら翠葉ちゃんにダイレクトな攻撃を仕掛けてくるはずだ。そう考えると、警備員のすり替えなんて甘すぎる」

「それは確かに……」

 それでも調べさせるのは不安要素を一掃するため。

「残るは怨恨?」

 唯が口を開くと、洗いだし作業に取り掛かっている蔵元が口を挟んだ。

「現段階でお嬢様に危害は加えられていない。警護にあたっている人間も極めて真面目な人間です。ただ、情報を操作された感が否めない。それで害を被るのはどこかわかるか?」

 唯はすぐに正解を口にした。

「今回の件で問われるとしたら人選ミス。それで責任を負う立場の人間は人事部長ってとこですか?」

「当たりだ。そっちはすでに内部監査が動いている。だから、雅が絡む人間のみ蔵元と唯で洗ってくれ」

「かしこまりました」

「了解です」

 指示を終えると蔵元の視線が向けられた。

「秋斗様はこれからパレスへ行かれるのでしょう?」

「察しがいいな」

「何年あなたについていると思ってるんですか」

 辞令が下りた今、俺より先に武継さんたちが到着するだろう。

 わかっていてもじっとしていられない。

 それが本音だった。

「こんなときになんですが……。秋斗さん、お願いがあります」

 唯が真面目な顔で俺を見ていた。

 視線のみで問い返すと、

「パレスへ行ってもリィに会わないでください」

「なっ――」

「リィ、ひとりになりたいんだと思います。ひとりで考えたいんだと思います。だから、会わないでください」

 唯は瞬きひとつせず口にした。

「悩んでいるリィから何度か話を聞きだそうとしたんですが、全部失敗に終わりました。そのとき、『まだ何も自分で考えてない、自分で考えたい』って言っていました。それから、さっきのあんちゃんとの電話では、『自分で行って、自分で帰ってきたい』って言っていたそうです。その邪魔はしたくない、しないでほしい」

「唯、翠葉ちゃんはたぶん――」

「秋斗さんストップっ! 今すぐお口にチャックしてください」

 は……?

「……薄々気づいてはいるんです。でも、リィが帰ってきたら話してくれることになってるんで、ほかの人の口からは聞きたくない」

 唯はそう言うと苦笑を浮かべた。

 唯は彼女の記憶が戻っていることに気づいていたのか……。

 それでも、彼女が話してくれるのを待っているんだな。

「……わかった。会いはしない。けど、心配だから行ってくる」

「行くだけなら問題ないです」

 話が済むと、俺はすぐにホテルを出た。

 時計を見れば九時半。

 今から高速を飛ばせば十一時には着けるだろう――。


 パレスに着いたのは十一時前だった。

 夜半の来客にパレスに従業員はぎょっとした顔をしたものの、すぐにいつもと変わらぬクオリティで対応してくれた。

「御園生翠葉嬢が泊まっていると思う。部屋は彼女の部屋の近くに手配してくれ」

「かしこまりました」

 カードキーを手にしたナイトマネージャーがすぐに客室へと案内してくれる。

「お嬢様のお部屋はお隣です」

「ありがとう」

 俺は部屋に入り、窓際のテーブルセットに腰を下ろした。

 それと同時に携帯が鳴り響く。

『武継です』

「守備は?」

『すでに皆配置済みです』

「何か変わったことは?」

『いえ、引継ぎも完了していますが、これといった問題はございません』

「そうですか……。彼女のことを頼みます」

『お任せください』

 長年、学園警備責任者を担っていた武継さんの言葉は、この夜初めて俺に安心感を与えた。

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