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光のもとでⅠ 第十四章 三叉路  作者: 葉野りるは
本編
35/110

35話

「つまり、約束を忘れて就寝したと?」

 キラキラ、と眩しいくらい爽やかに笑うツカサが怖い。

 気まずいとかどうしようとか、それ以前の問題。

「本当にごめんなさい……」

「まぁ、過ぎたことをとやかく言っても仕方ない。次の土曜か日曜で手を打つことにする」

「えっ!?」

 下げていた頭を上げると、ツカサの笑みはより深いものとなった。

「先日、一方的にキャンセルされたデートの振り替え。まさか嫌だとは言わないよな?」

「言わないよな?」と言われたにも関わらず、「言えないよな?」と言われている気がしてならない。

「なぁ……デートって? ふたりともいつの間にそういうことになってんの? 俺、聞いてないんだけど」

 海斗くんに声をかけられ訊き返す。

「そういうことって……何?」

「……話の流れから察するに、藤宮先輩と御園生は付き合うことになったんじゃないの?」

 佐野くんの言葉に仰天する。

「……えっ!? あっ、デートって違うよっ!? 海斗くん、違う違うっ。ただ、藤山の紅葉を見に連れて行ってもらう約束をしていただけっ。本当にそれだけなのっ」

 付き合うとか付き合わないとか、そんな話は一度もしていないものっ。

 私は佐野くんと海斗くんの方へ身体の向きを変え、一生懸命説明した。

「や……御園生、そこまで全力で否定しなくても」

「うん……そこまで全力で否定されると司が惨めすぎて……」

「えっ!? どうしてツカサが惨めになるのっ!?」

 前の席に座るツカサに視線を戻すと、ツカサは片方の口端を上げ呆れの混じる表情で私を見ていた。

「別にかまわない。さすがに慣れた」

 慣れた……?

「今ので、俺が翠に振られたかわいそうな男って噂にすり替わったとしても、なんら問題はない」

「えっ!? 振られたって何っ!?」

「翠は知らないのか? 俺が全校生徒の前で大々的に翠に告白をしたにも関わらず、気づいてもらえないかわいそうな王子ってあちこちで言われているのを」

 何それ、知らない……。第一、

「私、全校生徒の前でツカサに告白なんてされてないよ?」

 私がツカサに好きと言われたのは後夜祭のときだ。

 あのとき、私はツカサとふたりきりだったはず。

「だから翠は鈍いって言われるんだ……」

「え……?」

「朝陽と優太のふたり――というよりは、翠を除く生徒会メンバーと賭けをしていた。俺が翠に向けて歌ったところで翠が気づくかどうか。……当然、俺は気づかないほうに賭けて勝ったわけだけど」

「う、た……?」

「紅葉祭一日目のライブステージ。俺が歌う歌は翠への告白になるようなものが選曲されていた」

 ツカサはピンポイントで海斗くんを睨む。

「あはは、バレてた?」

「バカが……。あんな企み、朝陽たちが直接手を下すわけがない。佐野はそれに巻き込まれた口だろ?」

「ははは……ぶらぶら歩いているところを海斗と千里に捕獲されました」

 ツカサは苦笑を浮かべるふたりにため息をつくと、さらにはクラスを端から端までゆっくりと見渡す。

「まぁ、このクラスに限って噂を助長する人間がいるとは思ってないけど」

 その顔には「絶対零度」と言われる笑顔を貼り付けていた。

「もちろんっす! そんな噂、誰が流すもんですか」

「末恐ろしくて流せません」

「最新情報より命のほうが大切です」

 クラスメイトの声は右から左へと通過していき、私はひたすらに呆然としていた。

 だって……あの日の歌が自分に向けて歌われていただなんて――。

 今、言われるまで気づきもしなかった。

 紅葉祭初日も二日目も、ツカサのことで頭がいっぱいで……。好きと言われても、歌のことまで頭が回らなかった。

 何度となく、朝陽先輩が「好きな人に向けて歌っている」というようなことは教えてくれていたけれど、私はそのたびにショックを受け、嫌になるほど泣いた。

 後日、ツカサの気持ちを聞いてもあの歌が自分に向けて歌われていただなんて思いもしなかったのだ。

「翠、いい加減に箸を持て」

 その声に、視界の大半を占めるツカサに意識が戻る。

 途端、頬に熱を持つのがわかった。

 咄嗟に下を向き、小さな小さなお弁当で視界を満たす。

 頬どころか耳も頭も、身体全身が熱い気がした。

 気分的には今すぐ窓を開けて体温を下げることに徹したい。

 そんな私に、ツカサは畳み掛けるように爆弾を投下する。

「これからもここで食べる予定だからそのつもりで」

 今のはいったいなんの宣言……?

 ツカサは何事もなかったかのようにお弁当を食べることを再開した。

「それって……毎日ここで弁当食うってこと?」

 海斗くんの質問に、

「そういうこと」

 ツカサはどこまでも涼しい声で答える。

「藤宮先輩、キャラ変わってません?」

 右耳が拾ったのは飛鳥ちゃんの声。

「さぁな。対象が対象なだけにこっちも手を替え品を替えするしかないだろ」

 それだけ言うと、やっぱり黙々とお弁当を食べるのだった。

 私はどうしたらいいのかわからない人になっていて、ただひとり、桃華さんだけがクスクスと笑っていた。


 清掃時間になると、清掃場所が同じ佐野くんに話しかけられる。

「御園生、訊いてもいい?」

「だめ」

「うん。でも、訊いてみようと思う」

 だめという言葉は意味をなさず、佐野くんの質問は始まった。

「御園生、藤宮先輩のこと好きだって言ってただろ? ……あぁ、別に答えなくてもいいんだけど。でも、なんで付き合うことになってないの? 昼休みの藤宮先輩を見てたら先輩の気持ちは伝えられているみたいだし、御園生だってその自覚はあるみたいだし……。なのになんでまとまってないのかが不明」

 私は言葉を探す。

 答えなくていいと言われたけれど、佐野くんと香乃子ちゃんはあの日、私がツカサのことを好きだと自分からカミングアウトした人たちだから、何も話さないのはちょっと気が引けてしまう。

「……記憶が戻ったって話したでしょう? そしたら、どうしたらいいのかわからなくなっちゃったの。それと同時期に、藤宮の人間と関わるのか完全に縁を切るかっていう選択にも迫られて――」

「何それ……」

「藤宮と付き合っていくとトラブルに巻き込まれる可能性があるんだって。だから、紅葉祭のときにも私が口にする飲食物にはとても注意が払われていたし、今は十人近い警護の人がついているみたい……。守られることを拒むなら、つながりを絶つって言われたの」

「それ、いつの話?」

「先週の土曜日」

「海斗は……?」

「海斗くんはたぶん知らないと思う。 私、静さん――藤宮グループ次期会長直々に言われたから……」

「……すごい家だとは思ってたけど、そこまでとは……」

「私にも実感はないの。でも、お母さん――えと、うちの両親も藤宮の卒業生で、次期会長と友達なの。そのお母さんにも警護がついていて、蒼兄を妊娠したときには階段から突き落とされるとか、そういうことがあったみたいでね。そういう経緯があるだけに守られることを了承しなければ、ほかの学校に転校させられるところだった」

 佐野くんは絶句した。

「それだけは嫌だったの。海斗くんの手も、ツカサや秋斗さんの手も離したくなかったの。それと同時に考えたこと。ツカサか秋斗さんのどちらかを選ぶことになったら、どちらかひとりの手を離すことになる気がして……だから私――」

「そっか……それが御園生の出した答えだったんだ」

 私はコクリと頷いた。

「でも、まだ自分の気持ちの制御ができなくて困ってる。ツカサを見ると、会うと、心が忙しなくドキドキし始めるし、どうしたらいいのかわからなくなる。さっきも顔の火照りがどうしたらおさまるのか本当に必死で……」

 佐野くんはひとつ小さく息を吐き出した。

「御園生の選択は俺には納得しがたい。でも、困ったらいつでも呼んで。電話でもメールでも、話を聞くくらいならできるから」

「……佐野くん、ありがとう」

 少しだけ気持ちが楽になった。

 秋斗さんに会いに行く前に、ほんの少しでも心の態勢を整えることができて良かった――。

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