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光のもとでⅠ 第十四章 三叉路  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
100/110

30~45 Side Akito 06話

 事態は刻々と変化する。

 それに対応する人も、人の心も。

 ……ひょっとしたら、じーさんは感情だけを教えたいわけではないのかもしれない。

 コミュニケーションそのものを教えたいのだろうか。

 大切な人が相手ならなおのこと。

 自分のことを話せるようになれ、とそういう思いもあるのかもしれない。

 もしそうなのだとしたら、俺は進んでじーさんに加担する。

 自分を正当化する理由ができたからというわけではなく、好きな人と向き合うということは、本当に大切なことだと思うから。


 光朗道を抜け庵前まで来ると、俺は彼女に声をかけた。

「俺、今日は歩きなんだよね。翠葉ちゃんは?」

「行きは蒼兄と一緒に来たんですけど、何事もなければ帰りは歩いて帰るって話しています」

「じゃ、マンションまで一緒だね」

 司だけが置いてけぼりの会話。

 会話に加わらない時点で司はひとり藤山にある自宅へ帰ると決まったようなもの。

「司、またな」

「今日はありがとう」

 俺と翠葉ちゃんは司に声をかけ、大学へ向かって歩き始めた。

 彼女は気づかなかったみたいだけど、俺はずっと背中に視線を感じていた。

 司、欲しいものには手を伸ばさないと……。

 でなければ、俺は何度でも司の前から翠葉ちゃんを連れ去るよ。

 俺と彼女を取り合うって、つまりそういうことだろ?


 彼女は俺とふたりになった途端に黙り込む。 

 俺はそんな彼女に道端に咲く花の話を振りながら歩いていた。

 大学の敷地内に入ると彼女の目にはカフェのイルミネーションが映ったらしい。

「少しお茶していこうか?」

 彼女は悩んでいるようだった。

「蒼樹にも連絡入れてさ、あたたかいものを飲んでいこう?」

 蒼樹の名前が出ると、パッ、と表情が明るくなる。

 なんて正直なんだろう。

「自分でかける? どうする?」

「自分でかけます」

 彼女はポケットから携帯を取り出し、着信履歴を表示させた。

 ちょっと見えただけだけど、家族の名前ばかりが並ぶ着信履歴。

 家族と頻繁に連絡を取る彼女の携帯らしい。

 そこに、また俺の名前が連なるときが来るだろうか……。

 そんなことを考えながら蒼樹と話す彼女を見ていた。

 携帯には俺がプレゼントしたストラップが付けられている。

 しかし、そこには司があげたというとんぼ玉と、唯の分身のような鍵が一緒にぶら下がっていた。

「並列」――漢字二文字が頭に浮かぶ。

「あの……」

「ん?」

 彼女は通話口を指で押さえていた。

「出てくるのに十五分くらいかかるみたいで……」

 どこか不安そうな顔。

「十五分なんてあっという間だよ」

 そう答えたけれど、彼女はまだ何かを懸念しているようだ。

「お時間、大丈夫ですか?」

 俺はおかしくなって笑う。

 彼女は俺といる十五分を懸念していたわけではなく、俺に時間があるのかを考えてくれていた。

 そんなの、大丈夫に決まってる。

 ほかの何を後回しにしても君との時間を優先するよ。

「なんだったら三十分待ってもいいよ、って蒼樹に伝えて?」

 彼女はびっくりした顔をして携帯に向き直った。

「あのね、秋斗さん、時間は大丈夫みたい。だからカフェで待ってるね」

 そう口にしてから数秒後、彼女は通話を切った。


 カフェに入ると顔馴染みの店員に「いらっしゃいませ」と声をかけられた。

 この店員とは一年半ほど前から顔なじみ。

 蒼樹が当時の彼女と修羅場った直後、テーブルや周りの床を即座に片付けてくれた人間だった。

 そんなことを思い出していると、思わぬ偶然が降って湧く。

 店員に案内されたのはそのときに座っていたテーブルだった。

 そのときの話、翠葉ちゃんにしちゃおうかな?

 そんなことを考えていると、

「秋斗さんはこのカフェによく来られるんですか?」

「そうだな、大学にいたときは蒼樹ともよく来てたよ」

「そうなんですね……」

 彼女は相槌を打つように口にしては口を噤む。

 そんな彼女にメニューを見せると彼女はすぐにドリンクメニューを開き、そこへ店員がオーダーを取りに来た。

「藤宮くんはブラックコーヒーよね? そちらの彼女は?」

 気さくに話しかけられ訂正を入れる。

「あ、俺コーヒーやめたんだ。だからハーブティーをお願い。今日のハーブティーって何?」

「今日はカモミール。カフェインなしっていうならルイボスティーもあるけど?」

「翠葉ちゃんは?」

「あ……えと、カモミールティーをお願いします」

「ご一緒にケーキはいかが? このお兄さんにごちそうしてもらったらいいわ」

「えっ、あのっ――」

 彼女は自分で払うつもりでいたのだろう。

 戸惑う彼女を見ながら、

「ここのミルクレープは甘さ控え目で意外と美味しいんだ」

 彼女に笑みを向けてから、

「ケーキセットでミルクレープお願いできる? それから、あと少ししたら彼女のお兄さんが来る」

「あ、待ち合わせなのね?」

「そう、かの修羅場王子だよ」

「えっ……もしかして御園生くんの妹さんなのっ!?」

「そうなんだ。かわいいでしょ?」

「まぁまぁまぁ……なんてかわいい。麗しい兄妹だわね……。御園生くんがシスコンなのも頷けるわ」

 朗らかに笑いながら彼女は伝票を持ってカフェの奥へ消えた。

 再度ふたりになると、彼女は落ち着きなくグラスに視線を落としていた。

 きっと、会話のないこの場に困っているのだろう。

 俺がクスクスと笑みを零すと、

「秋斗さん……?」

「ううん、正直だな、と思って。でも、そんなに困らなくていいよ」

 そのままの君が好きだと、何度言ったら伝わるだろう。

 でもね、一生理解されなくてもいいよ。

 俺はその都度君に伝えるから。

「一緒にいること、もっと楽に考えて? 話題提供なら事欠かないし。……もう一年以上前の話だけど、この席で蒼樹とお茶してたときに蒼樹の彼女っていう女の子が現れてね、俺、初めて修羅場に同席しちゃったよ」

 君が食いつく話ならいくらでも出てくる。

 ずっと話していられる自信がある。

 でもいつかは、会話がなくても穏やかな気持ちでいてもらえるようになりたい。

 そんな日が来るまで、俺はずっと話題を提供し続けるよ。

「翠葉ちゃん、俺なら、翠葉ちゃんが困るようなことはしない」

 俺は司みたいにへそ曲がりじゃないから。

 そんなところは自分を推薦することができる。

「今日、司と一緒にいたときの君はすごく困っているように見えた。でも、俺ならそんなことにはならないよ」

 そんな俺はどうかな?

 彼女の眉がきゅっとひそめられたとき、カランカラン――カフェのドアが開く音がしてそちらを見ると、息を切らした蒼樹が立っていた。

「あーあ。お姫様とデート中だったのに、兄上のお出ましだ」

 半分本気で半分冗談。

 そんな俺の前で、彼女は蒼樹の登場にひどく安堵して見えた。

 残念になんて思わないよ。

 どんな君でも俺は好きだから――。

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