【第二回・文章×絵企画】青い円環のなかで(散文)
陽一様の作品で詩を書きました。陽一さんのURLは↓コチラ。http://10819.mitemin.net/指定ジャンルなし、必須要素なし。
石垣の水路を、流れに逆らって歩む。
ここの水はどこからか流れ、何処の川をつたって海へと還る。そんなありきたりな表現のとおりに、足元の小川、果ては大洋にさえも流れはある。私が今、逆らって歩んでいるのは、ただの細流ではない。海溝さえを抱いているただ一つの循環なのだ。進む足どりが拙く危うげなままなのは、冷めた膝下と陽の光が抱き留めた半身との、誤謬のためだ。
私と水との温度の平衡は、前方からやってくる。私のなかに潜む熱を、せわしい流れが暴き攫ってゆく。
奪われた温もりを補うように、飛沫を上げて冷たさは流れ込み、足から駆け昇ってきた。それは絶えない血の流れとなり、拍動する心臓をとおって、一つの体の巡りとなった。律動する冷やめきが、魂などと呼ばれるものを静かに愛撫するのだ。
くすぐったさに身を少しだけ捩って、私は屈んで水面に掌で触れ、水流を撫でかえした。静謐な速度のおくそこで漲っている激流を想像する。――とまれ空の青さが暑い。汗が私とセーラー服の隙間を流れ、肌は潤いをこして湿っている。ふと流れる風にあてられて私は錯覚する。服とは新たなる表皮なのだと。
それは恍惚だった。潺に天の青が一瞬、輝く。
緩やかな昂ぶりに、私は眩んでしまった。咄嗟に壁に手を付く、私は、手を付く以外の行動をなしえなかった。――ああ、私は、恍惚いがいの比喩さえゆるされない体験を、する。確かに、するはず、なのだ。
石垣の黒々とした熱は極めてうすい青のはしっこを纏った私で濡れはじめ、押しつけた冷水はすぐ幾筋もの流れへと分岐し水面へと還り、水流はいつまでも冷たさを保っていて、壁とのあいだでは隔たりつまり温度はすでに失われていた。壁、水面、水底、水流、白い、踝、脊髄、掌、ふたたび壁という順に透って、涼という感覚は<流れ>となって私を刺激する。<青>との交合。私と壁、そして水路には一つの回路が完成し、それはこの星の遥かおおきな一つの循環から注がれ注ぎかえすものだった。大いなる流れとの繋がりを感じた途端に私の意識は青空の遥か高みにまで昇り、永遠という視点から一年という刹那の地球の楕円軌跡を眺め、太平洋の遥か底にまで潜り、深淵という視点からありとあらゆる光輝の調べを知った。途方もない円環の始まりは私であった。精神の限りまで<青>に清んだ、この私だった!
気がつけば私の体はもう覆われていた。大気というぬるま湯などではない真の冷たさに。私を包んで逃さない万能感と法悦に、喘いだ。ゆらめく青が視界を満たし、瞳は無限遠に彼方の色を見定めようとでたらめに伸縮する。私の耳は名や語というくだらぬものを捨て、過ぎゆく奔流を聞く。かつて<智の神>が仰いだ泉はヒトの気道には多すぎるが、私はそれを鼻と喉で受け入れ、器官のすべてで、偉大なる<青>という円環の理を呑みほさんと踠いた。
いつからか、濁々と、流されていた。名を失い、器から解き放たれ、、一つの流れになる。青く煌めきながら、廻りつづけるのだ。