神狼さんと村の少年
「最近、神狼様が山から下りられて来ない」
長老が、そんなことを言っていた。
(実に、くだらない……)
黒髪の少年は、溜息をついた。
この村の人間は、山に住む神狼の予言に従い生活している。
最近、神狼の予言が途絶え、年寄り達の間で不安が広がっているようだ。
(少しは自分で考えて、動けよな)
しかし、年寄り達に融通が効くわけもなく……
「ルルドよ、山へ行って様子を見てこい」
珍しく頭を使った結果が、コレだ……矛先は村で一番若い少年に向けられる。
「なんで僕が……」
「神狼様は、若い子が好みらしくてのう」
長老は言葉を濁していたが
(要するに変態じゃん……)
この村では、長老達が決めたことには逆らえない。
「様子見に行っ、てさっさと帰ろう」
ルルドは山道を登り、神狼の祠へと辿りつく。
「神狼様ー、いらっしゃいますかー」
しかし、返事はない。
「寝てるのか? つーか、面倒なので帰りますよ」
長老には適当に報告しておけばいい、ルルドが踵を返した時
口を抑えられ、祠に引っ張り込まれた。
「ううっ……」
気がついたルルドは、肌寒に体を震わせる。
「……痩せていると思ったが、男だったか」
隣から、落胆したようでもあり妙に楽そうな男の声。
狼の耳と尻尾を持つ人間ーー村人が、神狼と崇める存在。
実物を目にするのは始めてだったが、ルルドは「この人が、そうだ」と直感した。
「貴方は、神狼様ですね」
「俺には、ユリスと言う名がある」
「まあ、どうでもいいんで、役目は果たしてください」
「ああ、予言のこと? 」
ユリスはルルドの頬に手を触れると
「君が、楽しませてくれたら考えてあげてもいいよ」
「男相手に……ユリス様は、変態ですね」
憮然とした態度のルルドに
「はははは、ちょっと君……面白いね」
ユリスは笑う。
「いいよ、今日はもう帰っても。君には、何もしない」
今日はね、と意味深に付け加える。
「はぁ……」
神狼様は、変わった方だった。
(長老には、いい報告が出来そうだけど)