天空界の姫君
忙しくて久しぶりの投稿です。
まだヒーローが出てこないですが、次回くらいには…
天空界に来て、一週間が経った。リディアは、少しずつであるがソフィアと仲良くなり、いつものワガママ姫に若干戻りつつあった。
「ソフィア、もう疲れたよ!」
「まだ駄目よ。今日の課題がまだ残ってるもの」
「え〝ぇ~」
朝からずっと、椅子に座りっぱなしでかなりお疲れのリディア。10分も座っていられなかったリディアを午前中ずっと座らせたソフィアは、かなりのスパルタ指導者であった。
「では、お茶をしながら昨日の続きを話しましょうか」
「その方がいい!!」
リディアは、助かったと言わんばかりに嬉しそうに立ち上がる。重く難しい本を片付け、机の上を拭く。
「何か食べる物をもらってくるわ!」
「えぇ、お願いします。その間にリディの好きなハーブティーの用意をしておくわね」
「ありがとう!行ってくるね」
初めての時は、気持ち悪くなった長い螺旋階段も慣れれば何て事もない。ある程度おとなしく歩く事が出来るようになったが、嬉しくてバタバタと走ってしまう。
「すみません。お茶の時間にするので、何か食べる物はありませんか?」
コック達は、こちらを全く見ずオーブンから焼き菓子を取り出した。無言で籠に入れて渡される。
「ありがとうございます」
お礼を言っても何も言われないのは、正直辛いものがある。実家では、みんなにかまってもらっていた分、この城の臣下の対応に不信感が膨らむ。
部屋に戻るとハーブティーの良い香りが広がっていた。
「ソフィア、丁度焼きたてだったよ」
「まぁ、嬉しいわ」
二人は、席に着きお菓子を広げてお茶会を始める。
「今日は、何の話をしましょうか」
「ずっと聞きたかったんだけど、ソフィアっていくつなの?」
母親のシルヴィアをシールと愛称で呼ぶ程の仲ならかなり年上のはずなのに、見た目はリディアとそれ程変わらない。
「今年で120歳になるわ」
「120?!」
思った以上に年上で開いた口が塞がらない。まさか、三桁だとは…。
「天空人の中では、120歳なんてまだまだ子供よ」
「え?うそ!?」
「天空人の寿命は、地上人の5~10倍だもの」
「10倍?!」
ありえない数字に驚きを隠せない。そんなリディアにソフィアは、笑いを隠せない。
「本当、シールの言ってた通り素直で可愛いわね」
「ただ無知なだけです…」
リディアは、ソフィアには悪態がつけず、顔を引きつらせて笑う事しかできなかった。
「じゃあ、これも知らないわよね?」
ソフィアが、ドレッサーの引き出しから大きな宝石の付いたブローチを持ってきた。透明感のある水色の綺麗な石が、ソフィアの真っ白な肌によく映える。
「それがどうしたの?」
「これは、魔空石と言う物よ」
「魔空石?」
「地底界でしか取れない貴重な宝石」
「えぇ?!」
リディアは、魔空石とソフィアを交互に見る。こんな綺麗な宝石と地底界が結びつかない。
「魔界にこんな綺麗な物があるなんて…」
「魔界…あぁ。今は、地底界を魔界と呼ぶのだったわね」
「魔界で教わったよ」
「そうですか」
魔界は、地底人と獣人族が主に住んでいる世界。実際見た事は無いが、魔界は常に薄暗く、恐怖や狂気など負のオーラがつきまとっている場所と言われている。
「魔空石は、元々は無色透明な宝石なの」
「じゃあ、この色は?」
「魔空石は、魔法力を入れると色が変わるの。一人一人魔法力の色は違うから誰の物かわかるのよ」
「おもしろーい!じゃあ、ソフィアの色は何色なの?」
「私は、瞳と同じ紫よ」
そう言って、髪をかき上げてピアスを見せる。瞳の色と同じ濃い紫色の石が光る。
「瞳の色と同じになるの?」
「そうでもないわよ。これをくれた人は、瞳の色とは違っていたもの」
「へぇ。でも、その石の人はとても優しい人なんだね。すっごく透明感があって綺麗だもの」
「そうなの!とっても素敵な人なのよ!!」
興奮気味で言って、嬉しそうに石を撫でるソフィアの顔は、今までにない程可愛らしく恋する乙女の様であった。
「ソフィアは、その人の事が好きなんだね」
「えっ?!」
何でわかるのかと言わんばかりの表情に、リディアはやっとソフィアをからかう材料を手に入れたと喜びでいっぱいであった。
「ねぇねぇ、どんな人なの?こんな絶世の美女が好きになるんだもの、とってもかっこいいんでしょ?」
17歳の少女なだけあり、恋に憧れている模様。リディアは、瞳を輝かせながら聞く。
「とっ、とっても素敵な人よ」
「それ、さっきも聞いたよ!」
「えっと…」
「どうやって出会ったの?いつ?どこで?ソフィアより年上?年下?」
質問したい事があり過ぎて、ソフィアの隣りに移動する。
「その方とは、ここを抜け出した時に出会ったの」
「抜け出した?!」
意外な答えに、リディアは大きな瞳をより大きく開く。
「今から100年くらい前に、出来心で城を抜け出した事があったの。城には無い楽しい事ばかりで、帰りたくなくなっちゃったの」
ソフィアは、恥ずかしそうに俯いた。
「どうやったかは覚えてないんだけど、気付いたら地上界に降りていて、帰れなくなってしまって…」
しっかり者のソフィアにもそんな事があったとは、少しだけリディアは、悪いと思いながらも嬉しくなってしまった。
「その方は、帰れなくなった私を保護して下さって、別れる時にこれをくださったの」
「すごい!なんてロマンティックなの!!」
「そうかしら…」
「そうなの!その方とは、会っているの??」
「100年ずっとここに居るし、誰にも聞けないから…」
「ごっ、ごめんなさい…」
リディアは、聞いてはいけなかったと後悔し落ち込んでしまった。
「気にしないで。私にとって、あの方に出会えた事自体、奇跡だったんだから」
「奇跡って…」
「長になる為の勉強ばかりさせられてたから、城から一度も出た事がなかった。抜け出せただけでも奇跡なのに、自由と恋を知れただけでもとても幸せだったわ」
城から一度出ただけで奇跡…。リディアは、疑問を通り越して不信に思う。何故、娘を城から一度も出さなかったのか…。勉強をさせるなら、城の外の事を知るのも勉強なのに。
「何で城から出れなかったの?」
「私もリディと一緒でお勉強の嫌いな子だったから…。恥ずかしくて出せないって言われてたわ」
「え?!」
「これは、本当よ。保護された時に、散々説教されたもの」
予想外の答えが帰ってきた。でも、やっと納得出来た事がある。ソフィアが、何故リディアの扱いがうまかったのか。それは、自分の経験からだったらしい。
「でも今は、その足の枷のせいで出れないんでしょ?」
リディアは、ソフィアの足元を見て言う。ずっと気になってた事を、ついに聞く気になったのだ。
「気になるわよね…」
ソフィアは、足首が見える様にドレスの裾を持ち上げる。華奢で真っ白な脚に似つかわしくない、重く頑丈そうな枷。
「これは、抜け出した罰なの」
「罰?」
「抜け出さないように、魔法力が封じられていて外せないようになってるの」
抜け出しただけで、こんな罰を与えるなんて…。
「どうしたら外せるの?」
「ある人を起こさなければならないの」
「ある人?」
「えぇ。とっても大事な人」
リディアは、ソフィアに幸せになって欲しくて心を決める。
「私が、その人を起こしてくる!」
「え?」
「どうすればいい?どこにいるの??」
「気持ちは嬉しいんだけど、それは無理なのよ」
「え?何で??」
まさかの否定にリディアは、ショックを隠しきれない。
「起こすのには、特別な魔空石が必要なの」
「特別な魔空石?」
「そう。真紅の魔空石よ」
リディアの胸が、ありえない程音を立てている。握った手の平には、汗が滲んできている。
「それは、どこにあるの…?」
「わかりません」
「それがあれば、いいのね…?」
「多分。その約束ですから…」
ソフィアの悲しそうな顔を見て、リディアは心の中で謝った。何度も何度も…。
思った以上に長い話になってしまった…。
2話に分けれませんでした。