第5話 旧王族
あかねが、建物の中に入っていくと、いかつい男性が彼女をにらみつけた。
「なんだお前? ここは、お前みたいな嬢ちゃんが来るところじゃねーんだよ」
「あら? これがあってもダメ?」
「なんだ?」
男は、あかねが持っていた札を見ると、これでもかというぐらい飛び上がって驚いた。
「あっあんた、北上家の人間なのか?」
「えぇ。北上あかね。それが私の名前です」
あかねがほくそ笑むと男性は、ちょっと待ってな。などと言いながら、奥の部屋に入って行った。
なぜ、あかねがこのようなものを持っているのか? 話は、三日ぐらい前にさかのぼります。
三日前。
あかねは、ラーウスの郊外で炎竜を休ませるためにいったん降りた。
「はぁ結構いい場所ですね~」
そこは、町から程よく離れている場所で、広々とした草原があり、その先には海が見えた。
風が吹くと寒かったが、春になれば、ポカポカとして暖かい場所になるのであろう。
「どちら様ですか?」
あかねが景色を堪能した後に寝転がった時だった。
頭上から声をかけられて、あかねは、体を起こしてそっちを見た。
「あら~あなたこそどちら様ですか~」
「私は、このあたりに屋敷を構えております、キタガミ・リョウ・ミーナと申します。あなたは?」
キタガミ・リョウ……なるほど。漢字を当てれば、北上亮と言ったところだろう。
いつか行方知れずとなった親戚の子孫なのだろう……彼女の顔には、自分のよく知る人物そっくりの表情が浮かんでいた。
「私は、北上あかねです~もしかして、亮さんの関係者か何かですか~?」
「えっあっはい。私は、北上亮の孫ですが」
やっぱりそうだったか。
しかし、孫となるとそれなりに年数の差があるとみて間違いない。
「そうですか~お孫さんですか~」
「えぇ。こちらとしても聞きたいことがあります。あかねさん、あなたは、日本の北上本家の次期党首である北上あかねですか?」
「そうですよ~あら? 聞いていた話と違うっていうのは、知りませんよ~」
あかねは、平然とした顔でそんなことを言ってのけているのだが、その彼女の前に立っているミーナは、ないが何だかわかっていないのか、あたふたしているのが見て取れた。
「あらら~? どうしたんですか~?」
「本当に北上あかねさんですよね?」
ミーナが疑り深い目であかねをにらむが、そんなことで動揺するようなあかねではない。
あかねが一切表情を変えないので、ミーナのほうがたじたじになってしまう。
「わかりました。あかねさん。よろしければ、わが屋敷にいらっしゃいませんか?」
「あら~いいんですか~そうですね……行かせてもらいましょうか~」
「はい。こちらです」
ミーナが歩きだし、あかねはそれについていく。
《主よ。北上亮の孫となると、旧王族の人間だぞ。あのものとどのようなかかわりが?》
「単純ですよ~北上亮は、我らが北上家の人間です。なので、北上亮の孫イコール私の親せきというわけですよ~」
《そういう……ものなのか?》
「そういうものなので~す!」
前を歩いていたミーナが振り返る。
黒い髪がそれについていくようになびいた。
「どうかされました? 何やらお話しされているようですが」
注1 召喚されていないときの炎竜の声は、あかね以外に聞こえていません。
「いえ~こちらの話なので、お気になさらずに~」
「そう……ですか?」
ミーナは不審がりながらも歩き出した。
《危なかったな。それにしても、大丈夫なのか?》
「何がですか~?」
一言交わしただけなのだが、再びミーナが立ち止まった。
「ここは、ただの平原なので、危険はありませんよ。それとも、不安があるなら、コソコソとしなくて、はっきりと言ってくださいますか?」
注2 しつこいようですが、召喚されていない状態の炎竜の声は、あかね以外に聞こえていません。
「いえいえ~そんなことはありませんよ~あなたを疑う理由なんてありませんから~」
「そうですか? だったら、静かについてきてくださいますか?」
ミーナがこれまでよりも歩調を速めて歩き出した。
「まったく、こんな人が北上本家の次期党首だなんて、信じられません」
「聞こえてますよ~」
あかねの声にミーナが大きな岩にでもなったかのように固まってしまった。
「あらら~どうしました~? あぁ失望させちゃったんですね~あぁ悪かったですね~別に私は気にしませんよ~妹にも散々ないわれようですし~ここじゃ、本家とか分家とか血筋とか関係なしですし、むしろ、元とはいえ、王族であるあなたのほうが上ですよね~そうですか。だったら、こんな態度というのも申し訳ありませんね~」
ミーナの全身の穴という穴から汗が噴き出している。
それが、熱いことによる汗なのか、冷や汗なのかは定かではない。
注3 ここは、旧王国領内なので、ずっと冬のままです。
「いっいえ、あの……その……」
「それでは、屋敷へのお招き至極光栄でございます。私のようなものが浅ましいとは思いますが、ぜひ、案内してください」
あかねが頭を下げると、ミーナはそれよりも深く頭を下げる。
「本当にすいません! いろいろな意味ですいません!」
絶対こいつには逆らえない。
術式を通して、音声が聞こえていた炎竜はそう思っていた。
読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。