第3話 新たなる決意
「炎竜さんの口のなかってどうなってるんですか?」
きっかけは、あかねのそんな一言だった。
あかねは、今、炎竜の口の中にいる。
落ち着いて一人で考えられる場所がないかと思い、考えた結果、ここしか思いつかなかったのだ。
もしかしたら、死んだあとの棺になる場所かもしれないから実際は言って確かめたいとか、適当な理由を作って入った炎竜の口の中で、あかねは口の中で横になる。
たまには、ここにいるのもいいかもしれない。
あかねは、そんなことを考えていた。
ドラゴンの唾液には、傷を癒す効果があると聞いたことがあるし、ドラゴンの体や血や汗に長らく触れていると長生きができるとも言われている。特に、ドラゴンの血を浴びたときは、一回殺されても死なないのだとか…
そんなことはさておき、あかねは今後のことを考えることにした。
牡丹は、仲間を作り、自分と旅する気などさらさらなさそうだ。
それは、このたびの目的がなくなったことを意味する。
だったら何をするのか?
このまま自由気ままに旧王国領あたりを旅するのもいいかもしれない…
牡丹は、東へ向かうといっていた。つまり、旧王国領では、彼女と再会する可能性が低い。
だったら、このままこちらにとどまって、自分を変えるために旅をするのもいいかもしれない。炎竜と一緒に、旧王国領の各地を巡って、いろんな人と出会って…そうすれば、少しは関係が改善するかもしれない…
今後のプランを頭で練りながら、あかねはいつの間にか、その場で眠っていた。
炎竜は、伏せた態勢で口を閉じている。
中にいるのは、自らの大切な主。間違っても飲み込むようなことがあってはならない。
「見てもわからないんで、実際に入っていいですか~?」
冗談か何かだろうと思っていた自分が間違いだったのかもしれない。
口を開けてみれば、本当に彼女は、何のためらいもなく中に入って行ったのだ。
肝が据わっているのか、ただのバカなのか…
炎竜は、いまだに北上あかねという人物が理解できなかった。
時々、見せる悲しげな顔が彼女の本来の姿で、それ以外の時は、別の人間を演じているのではないかと思うほどである。
それはともかく…この状態は、かなりきついな…
ドラゴンは、人間を食すものである。
召喚獣になった時点で、人間から定期的に魔力をもらえるから食べなくなるだけで、炎竜とて、人間を食べないということはない。
それに、彼の主は、かなりの量の魔力を持った人間である。口の中に入ってくると、よりわかる。
簡単にこの状態を説明しろと言われたら、高級食材を口に含んだまま、ずっと飲み込むなと言われているような状態である。
この状態がいつまで続くのやら…
自らの口の中で、主がすやすやと眠っているなどとは知る由もなく、炎竜は大空を眺めていた。
豪華な豪邸の廊下。
この廊下もまた、豪華な装飾品で輝いていた。
「牡丹! また、外で遊んできたりして! どういうつもり? お母様が言うには、お庭で寝ていたそうじゃない!」
「ごめんなさい…」
そんな廊下で怒鳴り散らす姉の前にいるのは、幼き日の牡丹だ。
「ごめんなさい、ごめんなさいって、本当にわかってるの?」
「…わかっています」
「本当に?」
「はい」
さっきから、この繰り返しだ。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい以外は?」
「もうしません。反省しています。家の中でおとなしく、おしとやかにしています」
牡丹が反省の色を見せようと、姉はその攻撃を緩めない。
「そういうことじゃないの! ちゃんと行動で示しなさい!」
あかねが再び怒鳴り散らす。
なぜわかってくれないのか? その気持ちからくるものだったのだが、幼い牡丹にそれが伝わるはずもなかった。
そこまで行って、あかねは目を覚ます。
そういえば、炎竜の口の中で寝てたっけ…
そんなことをぼんやりと考えながら、先ほどの夢のことを思い出す。
あれは、昔の私だ。やはり、あそこからすべてを間違い始めていたんだ…
あかねは、一人そんなことを考えていた。
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