第2話 召喚獣と契約者
さて、旧国境付近で野宿をしていたあかねは、ゆっくりと目を覚ます。
「あぁ…そういえば、久しぶりに野宿だったっけ…」
横に目をやれば、炎竜はまだ寝ていた。
体を起こして、近くの泉で顔でも洗おうと思ったが、炎竜の体がそれを拒んだ。
「…体の周りに竜の尻尾やら体が巻いてあるって、はたから見れば、竜に襲われてるみたいよね」
まぁそのおかげで温かかったのだからいいのだけど…
炎竜が起きるまで動けそうになかったし、日も高く上がっていないため、あかねはもう一眠りすることにした。
少し休むぐらいのつもりだったが、いつの間にやら寝てしまったらしく、日は高く上がっていた。
「起きたのか?」
「あら~私としたことが、寝ちゃったみたいですね~」
あかねは、ゆっくりと体を起こせ…なかった。
「炎竜さーん。どいてくれないと起きれないんですが~どいてくれませんか~?」
「おっと…すまぬな主」
炎竜は、ゆっくりと体を動かした。
それに伴って、炎竜に体を預けていたあかねがそのまま地面に寝そべった。
「やっぱり、もう一眠り~」
「あの…主、そろそろ行かなければ、日が沈むぞ」
炎竜の言葉は、冗談などではない。
このままあかねが寝れば、おそらく夕方になっても起きないのだろう…
「え~起きなきゃだめですか~」
「なぜ、このような場所で堕落した生活になりかけるのやら…」
文句を言うあかねを見ながら、炎竜はあきらめにも似た感情を持つ。
実際、竜の谷にいたときもこの調子だったのだから、根本的なところを直さない限りこのままかもしれない。
「ところで、明朝に一回起きたんですが~いつの間に私を捕まえてたんですか~? ちょっと、動きづらくて、もう一眠りしてしまいました~」
あかねは、起き上がって背中についている草を払っている。
「このあたりは、冷えるからな…寒くて、主に風邪をひかれては困る…迷惑だったか?」
「いえいえ~ぜーんぜん迷惑じゃないですよ~ただ、はたから見たらまるで、可愛い女の子が竜に襲われてるみたいじゃないですか~」
自分のことをかわいいというな…などと、炎竜が言い返すが、あかねはそんなことを全く無視してこういってのけた。
「ところで、襲われるで思い出したんですけど~召喚獣というのは、契約中に術者が死んだら、召喚獣は術者を食べるんですよね~」
炎竜は、あかねが意外なことを言い出すものだから、キョトンとした顔をしている。
「まぁな。主とて例外ではないぞ」
「わかってますよ~それで、気になったんですけど、人間っておいしいんですか~? たとえば、私はどうですか~?」
まさか、そんなことを聞かれるとは…
どうせ、食べられるのならあまり噛まないでくれとかなら言われ、それは保証できんと言った会話はいくらかしたことあるが、おいしいかと聞かれたことは自分の記憶にある限りなかった。それもまったりとした表情で聞いてきたのだ。
「そっそうだな…まぁ口にせぬことには何とも…」
これは正直な感想である。
実際、ほおばっておいて、まずいと感じてそのまま吐き出した時もあるぐらいだ。
必ずしも、人間というのは同じ味ではない。
「そうですか…まぁ私が気にすることではないですねよね~」
「まっそうであろうな」
初めて自分を下僕ではなく友と言ってくれた主を何があっても守る。
炎竜は、そう心に誓っていた。
しばしの休憩を取った一人と一匹は、再び空を飛んでいた。
「さて、国境を越えたらどうする?」
炎竜の質問にあかねは笑顔で答えた。
「そうですね~西の海岸ぐらいまで行っちゃってくださーい」
「西の海岸だな…速度を上げるからつかまっておれ」
炎竜は、一気に速度を上げて西へと飛んでいく。
炎竜の背中で風を感じながら、あかねは一人考えていた。
「炎竜さん…私は、牡丹にとって邪魔でしかないのでしょうか?」
「牡丹殿にとっての主か? まぁ我が口出すことではなかろうが、血がつながった姉妹が、お互いを心底嫌っているというわけではないのではないか?」
まぁ本当に嫌っていると気づくころには、どちらかが死んでいたりすることもあるがな…などと炎竜は付け足す。
「そうですか~そうなんでしょうかね~」
わざわざ炎竜にまたがって登場したのは、頼ってほしかったというのが一番だった。
それに、東の方…帝国は首都を中心に非常に荒れている。旧王国領周辺は比較的安定しているだけで、東へ行けばいくほど状態がひどくなっていくのだ…だから、西へ連れ戻そうとしたのだが、それもかなわなかった。
「私は、どうしたらよかったのでしょうか~」
あかねは、眼下に広がる港町やナデシコという大きな町を見下ろしながら考える。
もしかしたら、自分たち姉妹の間には、修復不可能なほど大きな溝が口を開けているのではないかと…
もっと早く気付けばよかった。
この世界に来る前に…こんなことになる前に気づ入れいればよかったのだ。
空を真っ黒で分厚い雲が覆っている中、炎竜はひたすら西へ向けて飛んでいった。
その背中に一人の少女の悲しみと決意を載せて…
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