第1話 新たなる旅立ち
その日は、とてもよく晴れていた。
あかねは炎竜にまたがり西へと向かっていた。
「もうすぐ旧国境を超えるぞ」
「えぇ。わかってますよーそうですねー旧国境を越えたら降りてくださーい」
「わかった」
先ほどまで低空飛行していた炎竜は、旧国境にそびえる山を越えるためにやや高度を上げ、ぐんぐんと地上が遠ざかっていく。
「炎竜さーん」
「なんだ?」
「この世界で強い魔術師って誰がいるんですか~?」
あまりに唐突な質問だったためか、炎竜は言葉を失っていた。
「あれ? どうかしたんですか~?」
「いっいや、あまりに唐突だったのでな…強い魔術師と言えば、ナデシコ城のスティーリア姫が有名だな…他には…主より上となるともう一人…名前や素性は一切謎の魔術師がいると聞いたことがある。なんでも、スティーリア姫や伝説の魔術師と言われている北上亮をもってしても達成できなかったというすべてん魔法の会得を実現したとされている」
炎竜は、そこまで行ったんところでいったん話を切りこう続けた。
「まぁ実際にあったわけでもないから、本当かどうかは知らんがな…だが、その実力が高いのもまた事実だ」
炎竜がそういうと、あかねは感心した様子「でへぇ~そうですか~」などと言っている。
「そんなことよりも…あの牡丹とかいう娘のことはよかったのか? あれほど心配しておったのに…」
炎竜の心配をよそにあかねは、涼しい顔でこう答えた。
「心配じゃないって言ったら、ウソになりますけど、お仲間もいたようですし、どーせなら私なんかいない方がいいんですよ~あの子にとっては、私なんかいない方が幸せに決まってますよ~だって、これまであの子の恨みをどれだけ買ってきたことか…」
「主…」
「ですが、最近…いえ、あの子から離れて気づいたんですよ~私は、あの子に対する態度を改めないといけないのかな~って、でも、今頃になってから関係を修復しようなんて考えが間違いだったのかもしれませんね~」
この時、炎竜はあかねの顔を見ることはできなかったのだが、炎竜はあかねが今、どういう状態にあるのか直に感じていた。
「ほんと、どうしてこうなっちゃったのでしょうか…私は、私はただ、あの子の…牡丹やあけびのためを思っていたはずなのにどうして…どうして…」
あかねは泣いていたのだ。
炎竜は、ぐんぐんと高度を下げて地上に近づいて行った。
「いったん、どこかに降りて休憩させてもらう」
「えっ」
「ふんっ主の目から水があふれているというのに、このまま飛んでられぬわ」
炎竜なりの不器用な優しさなのかもしれない。
この時、あかねはそう思っていた。
「泣いてなんかいませんよ。あなたこそなんです? 私が命令する前に降りるだなんて…」
「…」
「まぁいいですよ~私も休憩したかったんで、このまま降りてくださーい」
あかねがそういったとき、炎竜は地上に降り立った。
地上に降りて約1時間。高く上がっていた太陽は徐々に傾き、あたりを赤に染めていく。
すぐ西側に山がある関係で、この地域の夕暮れは早い。そのためか、あかねは今日は、ここで野宿すると言い出したのだ。
「主よ…わざわざ野宿などしなくとも、日が暮れる前に向こうの町に着くぞ」
「別にいいんですよ~まぁ最初はこうだったんですから、いわゆる原点回帰ってやつですよ~」
「原点回帰?」
炎竜には理解できなかった。
まだ、旅を初めて日が浅い。なのに、なぜ原点に戻る必要があるのだろうか…
「牡丹も新しいお仲間と仲良くやっているみたいですし、そうなると、あけびもそのはずですから、いっそのこと旅の目的を変えようかと思ったわけですよ~」
なるほど。と炎竜は納得する。
確かに、牡丹はあかねから聞いていたような人物ではなかった。
だからこそ、あけびも成長していると信じたうえでの原点回帰ということなのか…
あかねが野宿の準備を終えるころには、日が沈みすっかりと暗くなっていた。
読んでいただきありがとうございます。
久しぶりにあかねの話です。あかねと炎竜ってこんな感じだったかな? などと考えながら書いていました。
これからよろしくお願いします。