テキオー灯を浴びたのは
誰にも信じてもらえないだろうが、俺は昔テキオー灯の光を浴びたことがある。
もう、ずっと昔のことだけど。
「おれさ、テキオー灯がほしかったんだ」
「テキオー灯?」
「うん」
なんだそれ。いぶかしげに聞く俺の声。「やっぱ覚えてないかあ」いつもより弱々しく笑うあいつ。あれは、いつのことだったっけ。
「覚えてないって、だからなにをだよ」
「『のび太の海底鬼岩城』って、覚えてない?あれに出てきた秘密道具だよ」
「あー・・・覚えてねえ」
「だろうなあ」
いまどきドラえもんって。笑う俺にいいじゃんドラえもん好きでもと同じように笑うあいつ。いつもどおりのはずだった。何もかもが普通どおりで、変わったことなんてなにもないと、そう思ってた。
「雅、出雲くんが」
そう言って泣きだすお袋。なあ、嘘だろ?なんでなんだよ。なんでお前、いなくなっちゃうんだよ。
「テキオーとぉ」
ドラえもんみたいに言いながら小さい懐中電灯を俺に照らしてくる出雲。あいつは、テキオー灯の光を浴びなかった。だからなのか?だから、お前は
「雅、お前はさ」
なあ、あの時、お前はなんて言おうとしたんだ?
「馬鹿」
小さな墓。それが最後に見たあいつと被ってしょうがない。なあ、なんでお前死んじまったんだよ。なんで、一人で死んだんだよ。なんで、俺も一緒にそっちにいかせてくれなかったんだよ。あいつが死んですぐはそう思ってた。だって、ずっと一緒だって、そう言ったのはお前じゃないか。紫苑の花束を供えながら昔を思い出す。懐かしいあの頃。二人きりの世界は狭かったけれどとても心地が良かった。
でも、いつまでもそこにはいられないんだ。
「また来るな」
はやく近くの公園で待ってる後輩を回収しねえといけねえからさ。
《先輩、用事終わったんですか?》
「おう、帰ろうぜ」
《はーい》
スケッチブックに書かれた文字を確認して手を差し出す。握られた手は温かった。
あいつがいない世界は、だけど何も変わらない。ただ漠然と毎日を過ごしていくだけだ。
だけど、そこにあいつはいない。俺の隣に、あいつはもういない。だけど広い世界は毎日が騒がしくてやかましくて。仲間もずいぶん増えて。
後輩の、朝日の手を少し強めに握って後ろを振り返る。なあ、もしかしてお前が、俺にだけテキオー灯を浴びせたのは。
「おれがいなくても笑ってろよ、ばあか」
口元しか見えない、あの時のあいつがこっちを見て笑っていた気がした。
【テキオー灯】
その光を浴びるとたとえ底が海の底だろうがどこだろうが適応できるドラえもんの秘密道具。『のび太の海底鬼岩城』に出てくる、二十二世紀でも新発明の道具。
【蛇足】後輩ちゃんはしゃべれないのでスケッチブックに文章書いて意思表示してます