三章 導神⑭
「イザーナ殿!」
ツズファは扉を蹴破り、部屋に入り込んだ。
「イザーナ殿! 無事ですか!」
その手に笛を握り締め、奥へと進んでいく。すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……だな、そうか、酷いもんだな」
声の主を探す。ベッドの隅、そこに隠れるようにイザーナは座り込んでいた。一人で何かを呟いている。
「……大丈夫ですか?」
ツズファはそう言ってイザーナに近付こうとして――この部屋の惨状に思わず息を呑んだ。
辺りは、まるでペンキをぶちまけたように真っ赤に染まっていた。むせ返るような悪臭が立ち込めている。イザーナが座り込んでいる場所が一番酷い。
「……イザーナ殿?」
ツズファは、しきりに何かを呟いているイザーナに尋ねる。
「……これは誰の血ですか?」
ゆっくりと近付き、その肩に手を置く。だが彼は顔も上げず、一人で――腕に何かを抱きしめて、呟いていた。
ツズファはよく目を凝らし、イザーナが抱きしめている物が何かを確かめる。そして、それが何か分かった途端――
「……!!」
ツズファは猛烈な吐き気に襲われた。必死に口を押さえ、堪える。
「……そうなんだよ。吐き気がするよなぁ」
イザーナはそう言って、それの髪を優しく撫でた。
イザーナが抱いているもの、それは――ウーノの首だった。
「あぁ、そうさ。俺は殺したんだよ」
イザーナはククッと笑った。ツズファがいることに気付いているのか、いないのか、彼はその首に語り続ける。
「そうだ、ウーノ。さっき言おうとして言えなかったけどな……」
イザーナは首を持ち上げ、それに口付けをした。
「お前が俺に持っていたものは……くだらない妄想――甘美な幻想だ」
鼻を鳴らし、自嘲気味な笑みを浮かべる。
「そして……その全てを受け入れてやれるほど――俺は出来た人間じゃあないんだ」
ゆっくりと抱きしめ、その耳元で、すまないな、と呟いた。
途端、一瞬首が霞んだかと思うと、次の瞬間、首は跡形もなく消え失せていた。消える寸前、彼女の目から涙がこぼれたように見えたのは錯覚だったのだろうか。