三章 導神⑪
「迷ってしまいましたねぇ……」
狭い路地の中、車を走らせつつ、ツズファはそう呟いた。
「奴の声がしたから、この辺だとは思うのですが」
車の速度を上げ、ホテル前を通り過ぎようとしたとき――
「っ!!」
咄嗟にブレーキを踏み、車から降りる。そして目の前のホテルを見上げる。
「遅かった……」
そう呟くその顔は苦渋に満ちていた。
「終焉の音、聞こえましたよ。イザーナ殿」
「な、何で……」
ウーノは目を見開き、イザーナを見ていた。
「何で死なないのよ!?」
「…………」
イザーナは額に出来た銃創に手をやり、血を拭う。ウーノは腰を抜かしたのか、その場に座り込み、ガタガタと震えている。
「……ウーノ」
イザーナはウーノをまっすぐ見据え、口を動かす。
「お前ここに三年住んでるって言っていたよな? それじゃあ去年の冬にお前が通報したあの家はお前の家じゃなかったのか?」
ウーノはその姿勢のまま答えない。だが彼女の行動で大方理解できた。
「今みたいなことを――あの時の犠牲者にもやったんだな。誘って、断られれば殺す。それと警官に賄賂も渡しただろ? 大した捜査が行われなかったから、おかしいとは思っていたんだ」
「うるさい!」
ウーノは再び銃を向ける。怯えが怒りに変わったようだ。
「銃を下ろせ、人殺しが」
そのイザーナの言葉にウーノはわなわなと肩を震わせ始めた。
「人殺しですって……? 違う、私は――」
ウーノは首を横に振り、違う、と何度も叫んだ。イザーナは静かに口を開き、はっきりとした口調で言葉を吐き出す。
「お前は――」
ただのイカれた人殺しだ。