一章 造神⑤
次に汚い文字が書かれた紙に目をやる。
字が酷く歪んでおり、暗号のような文だが、一部読める文字があった。
それにはこう書いてあった。
『死で始まり、生を救い、死で終わる』
「…………」
――訳が分からん。
頭をぼりぼりとかきながら、大あくび。とりあえず顔を洗うことにし、写真と紙を近くの机の上に置いて、洗面所に向かった。
毛先が割れた歯ブラシと、くしゃくしゃに丸められた歯磨き粉が置かれた洗面台。水道の蛇口をひねり、水を出す。顔に水をぶっかけ、タオルでごしごしと拭き取る。大分すっきりした。
だが、まだ頭がズキズキと痛むので、シャワーでも浴びようか、などと考えつつ、正面にかかった鏡を見る。
そこに一人の男の顔が映った。その顔は――
「…………」
踵を返し、先程机の上に置いた写真を手に取り、洗面所の鏡と写真とを交互に見比べる。写真に写っていた男。こいつは――
「俺……だよな……?」
目の前の鏡には、先程まで胡散臭いだのなんだの言っていた、男の顔が映っていた。写真よりは少し年を取っていた。
「…………」
――つまり俺はあの女の恋人か何かってことなのか?
写真の風景が遊園地のような場所なのだから、そうとしか思えない。
「それで彼女は怒っていたわけか……」
そこまで考えて、一つの疑問が浮かぶ。
――だけど何で彼女のことを思い出せないんだ? 写真を見る限り、結構長く付き合っていると思うんだが……。
鏡に映る自分の顔を凝視。彼女が記憶喪失と言っていたことを思い出し、頭に傷等が無いか調べてみる。とくにそれらしい外傷は無かったのでひとまず安心する。一応、体も確認してみたが、ケガは無かった。
「ひょっとして痴呆症?」
なんとなく出た言葉だったが、自分で言って将来がすごく不安になってきた。