三章 導神④
その時、一台の車が車道に乗り上げ、停車した。赤の軽自動車だ。
運転手が車から降り、二人が入り口を陣取る雑貨店の中へ入っていった。車の鍵を付けたまま。
「ビンゴです、スザーノ。お待たせしました。行きましょう」
そう言って、ツズファは肩を揺さぶるスザーノの頭を軽く小突き、そのまま車へと乗り込んだ。
「ほら、早く乗りなさい。運転手が帰ってきますよ」
「…………」
スザーノはその行動を見て、呟いた。
「……泥棒するために待ってたのかよ」
「泥棒とは失礼な」
ツズファは、いつもの不気味な笑みを浮かべた。
「ちょっと借りるだけですよ」
「ふぅ、今日は散々な日だった……」
男はそう呟きながら、自動ドアを超える。少し顔が俯き気味だ。
「人をはねちまうは、そいつに買ったばっかりの車取られて、しかもフロント割られるわ。警察に呼ばれるわ……最低最悪の日だった」
軽く自嘲気味な笑みを漏らす。
「まぁ、これだけ悪いこと起きたら、もう起きないだろう。車は修理すればいいんだ」
そう言って顔を上げると同時に――
目の前の自分の車が発進した。
「…………」
男は先程まで車があった空間を見つめていた。そしてしばらくして小さな声で一言、こう呟いた。
「……俺が何したって言うんだよ」
雨はますます強くなっていった。