三章 導神②
「今日の天気は最悪ですねぇ」
壁にもたれかかり、濃い雲が広がる空を眺めて、そう呟く。
「だよなぁ。こんなジメジメしてるときに外に出るもんじゃあないぜ」
それに賛同する別の声。
「まぁ、文句を言っても始まりません。気長に待ちましょう、スザーノ」
「待つって言ってもさぁ、兄貴……。何で待たなきゃいけないかが、分からないからイライラすんだよぉ」
仰々しくため息を吐き、スザーノはくどくどと文句を垂れる。
今、ツズファとスザーノの二人は、アパートから少し離れた雑貨店の入り口に立っていた。入り口の左右を陣取っているため、店の主人はさぞ迷惑な顔をしているだろう。
「大体何だ、あのイザーナって野郎。どこまでも自分勝手に振舞いやがって。俺は、ああいった奴が一番嫌いなんだよ」
「……まぁ、確かにあの性格は難有りですねぇ。その所為か、私も無意識に嫌がらせしてしまうんですよねぇ」
「……それは兄貴の性格があいつと同じぐらい悪いからだよ」
「……あなたも言いますね」
ツズファは笑みを引きつらせ、目を細める。
「あぁ、暇だ。兄貴、煙草吸ってもいいか?」
スザーノはそう言うなり、ポケットから小さい透明な袋を取り出した。その中身は土だ。スザーノはその中に指を突っ込み、土を適量掴んで持ち上げた。すると、持ち上げられた土がスザーノの指を中心に、徐々に一本の煙草へと変化していった。
「……あなた、もう少し周りを見て力を使いなさい」
「いいじゃねぇか、これぐらい」
スザーノはそれを口にくわえ、土が入った袋をポケットに仕舞った。
「なぁ、兄貴。火ぃ持ってない?」
「はい?」
スザーノの質問にツズファは頓狂な声を上げた。
「何を言っているのですか? 自分で作ればいいでしょう?」
そのツズファの言葉に、スザーノは眉をひそめて言った。
「あれ、兄貴知らねぇの?」
「……何がですか?」
ツズファの問いに、スザーノは下卑た笑みを浮かべて、口を開いた。