二章 死神39
――不要な殺人。使命放棄、ミス。神を知りすぎた人間、教えすぎた神。導き手殺害。そして――
「……その死神は……言ったわ」
ミナはフードの奥の顔をこちらに向け、言った。
「神との性交がお前の罪だと」
「…………」
彼女はゆっくりと立ち上がる。そして白い手をフードに掛ける。
その突然の行動に、イザーナの中に無意識に恐怖が芽生えた。
「……イザーナ、私はあなたを信じているわ……」
彼女はゆっくりと近付いてくる。
「嘘……よね? これは全部いつもの冗談なんでしょう……?」
イザーナはゆっくりと後退し、背が壁に触れる。口がわなわなと震えている。
「イザーナ……答えて……神とか罰とか、全部くだらない冗談なんだと……」
呼吸が速くなり、足が震えだす。何も言葉が思いつかない。
「ねぇ、イザーナ」
彼の目の前に彼女がいる。こちらに向けているフードの奥は暗くて見えない。
「嘘なんでしょう?」
フードに掛けられた手に力がこもる。
「この姿も全部嘘なんでしょう!?」
彼女は一気にフードをめくった。
フードを握る彼女の白い手。そしてフードの中から彼女の顔が出てきた。綺麗な亜麻色の髪がその顔を覆っている。その下に浮かぶ白い肌。剥き出しの歯とこちらを見つめる赤い目。
――違う。
髪についた黒い汚れ。鼻につく異臭。髪の隙間から覗く、ぎらぎらとした赤い光。剥き出しの歯――笑っているのか――違う。
――あるはずの唇が無い。
「……あぁ……」
白い手。白すぎる。それは――皮膚を失った――骨を剥き出しにした手だ。
白い顔。所々が赤黒い。歯の奥の赤い肉――舌だ。粘着質な液体で濡れている。頬が――鋭利なもので削ぎ落とされたような傷跡を残している。
ぐるんと何かが動いた。
朱肉に囲まれた丸い物。隣に空洞が開いている。本来二つであろうその物体は必死にこちらに焦点を向けている。
彼女の――目だ。
「イザーナ……」
歯が上下に動き、その奥の舌がうごめく。
「これは――嘘なんでしょう?」
彼女の手がイザーナの肩に伸びる。
「……ねぇ」
舌が動き、彼の名を呼ぶ。
「イザーナ」
そして彼は――
悲鳴を上げた。