二章 死神37
「……留守か?」
――もう仕事は終わっていると思うが……。
そう考えながら、ドアノブに手を置いて、捻る。きいっと金属の擦れ合う音が響き、ドアはゆっくりと開いた。
「……無用心だな」
そう呟きながら、開いたドアから部屋の様子を伺う。そろそろ暗くなる頃合いだというのに、部屋には電気が点いておらず、薄暗い。そして――嫌な臭いがする。
「……誰もいないのか?」
部屋の奥に向かって、言葉を投げかける。それにも返事は無く、部屋の中は静かだった。
「…………」
無意識に視線を下げる。玄関先、そこには大きな黒いシミが出来上がっていた。こんなものは記憶に無い。
「……何なんだ?」
イザーナは部屋の中に入り、ドアを閉める。そして部屋の奥へと足を進める。
「……ミナ」
恋人の名前を呟きながら、リビングのほうへ向かう。
すごく静かだ。外の雨音も聞こえない。嫌な予感がする……。
「…………」
リビングに通じる扉を開け、とりあえず電灯のスイッチに手を伸ばす。
「……点けないで」
「っ!!」
突然発せられた声に肩をビクッと震わせる。
「誰かいるのか!?」
薄暗い部屋の中を見回す。すると、その中に一箇所、黒く浮かび上がったような部分があった。
そこに視線を固定し、息を整えていく。
「ミナ……か?」
それは身動きする。よく見ると、それは黒いレインコートのようなものだった。
「ミナなのか?」
その黒い物体に一歩近付く。それと同時にそいつが叫んだ。
「来ないで!」
そいつはブルブルと震え、部屋の奥に逃げていく。