二章 死神36
「くそったれ、雨降ってきやがった」
タクシーから降りて数分歩いていると、突然の豪雨に見舞われてしまった。あまりにも酷いので、近くの店で雨止みを待つことにした。イザーナはコンビニの入り口で、缶コーヒーを飲みつつ、ぶつぶつと悪態をついていた。
今、彼はオウングロウから鉄橋を渡った本国、ヨヅモにいる。その理由は、恋人に会うためだ。今朝は喧嘩別れみたいなことになってしまったから謝ろう。そう彼は思っていた。
だが突然の豪雨で足止めされるとは思わなかった。
「くそったれ。俺に行くな、とでも言いたいのか」
飲み終えた缶をゴミ箱に投げ捨て、ふぅ、とため息を吐く。
「……止みそうにないな」
空を見上げ、再びため息。
「……仕方がない、走るか」
舌打ちをしつつ――しかし恋人に早く会いたいと願う自分に呆れつつ、彼は走り出した。恋人の住むマンションへ。
十分程経過したとき、目当ての建物が目に映った。七階建てのマンションだ。
「あぁ、ちくしょう。びしょ濡れ」
イザーナは急いでマンションに入り、上着を軽く絞った。
「すっかり体が冷えちまった」
濡れた前髪を上げ、マンションのドアを開け、中に入る。そして入り口近くのエレベーターに乗り込んだ。
「確か三階だったな」
そう呟きながら、ボタンを押す。もうすべて思い出せる。彼女の名前も。
「驚くか、呆れるか。まぁどっちでもいいか」
独り言を呟きながらエレベーターから降りて、廊下を歩いていく。
そして目当ての部屋の前に到着した。
目を瞑り、深呼吸をする。気持ちが急いている。そんな自分の様子に、呆れたように笑みがこぼれる。
そして――ゆっくりドアをノックした。
「…………」
しばらくして、もう一度ドアを叩く。しかし返事はなかった。