二章 死神35
ふぅ、と息を吐き、ウーノは髪をかきあげる。
「ところでツズファさん」
ツズファは返事を返さず、視線だけを送る。ウーノは静かに、ゆっくりと口を開いた。
「そのコートの中に隠してる物――どうしてさっきから私に向けているの?」
「…………」
ツズファはまたも返事をせず、視線だけを彼女に送り続ける。
そのツズファの様子に、ウーノは呆れたようなため息を吐き、その場に手を上げる。タイヤと地面が擦れる音と共に、彼女の隣にタクシーが停車した。
「怖い人ね。顔は彼にそっくりなのに。もったいない」
それだけ言うと、彼女はタクシーに乗り込み、その場を去っていった。
「…………」
彼女が去ってからも、ツズファはそのままの姿勢で立ち尽くしていた。そして目を瞑り、呼吸を整える。
「……怖い……ですか……」
呟きの声と同時に、右手を引き抜く。その手には――イザーナの銃が握られていた。
「そうなのかもしれませんね。私は――怖いのでしょうね」
自嘲気味な笑みを漏らし、銃をコートに仕舞う。
「最低最悪ですね。私は今ここで彼女を殺すべきだったのでしょう。そうすれば、あのようなことをせずに済んだのに。なんとも――言えませんね」
クックック、と肩を揺らし、顔を上げる。
「雨が降りそうですね」
その顔は笑みを浮かべていたが、彼の拳は硬く握り締められていた。何かを堪えるように。
「神……とはなんとも……」
帽子を深く被り、顔を俯かせる。
「胸糞悪いですね」