一章 造神④
「それは詭弁というやつだ。お互い名前も知らない男女が愛し合い、子供を産んだという昔の伝承がそれを物語っている」
「まさか、その辺の強姦犯、とか言うんじゃないわよね?」
「…………」
彼は、ぐっと言葉をつまらせるが、すぐに新たな言葉を吐き出す。
「俺とお前が愛し合うのは犯罪だろうか?」
「恋人同士だろうが夫婦だろうが無理矢理は犯罪になるのよ」
「……あぁ、ネタ切れだ……」
もう何も思い浮かばず、最後にそう締めくくった。
そんな彼の様子に、彼女は再びため息を吐く。そしてそのまま何も言わず、玄関の扉のドアノブに手をかける。
「……結局お前は誰なんだよ」
誘いに失敗した、と悟り、再び最初の質問をする。
その質問に、彼女は振り返らずに言った。
「自分で考えなさい」
ドアが勢いよく閉まる音がし、彼女は出て行った。
「…………」
静寂。
耳にドアが閉まる音の余韻が残っている。
「何なんだよ……」
ため息を吐きながら、辺りに散乱する下着と上着、ズボンと、視線を辿っていく。
――汚い部屋だな……。
そんなことを思いながら、再び上着に視線をやったとき、彼の目に、上着のポケットからはみ出している紙切れが留まった。
何となくそれが気になり、ベッドから立ち上がり、その紙切れを手に取る。
その紙には、汚い文字と共に、一枚の写真が挟んであった。
「これは――あの女……?」
やや古びたその写真には、幸せそうな笑みを浮かべた男女が写っていた。
一人は先程の女らしき人物だった。女のほうは今より若く、まだ少女と言ってもいい幼さだった。
次にその隣、女の肩に馴れ馴れしく手を置いている男に眼をやる。
「誰だ、コイツ……? 胡散臭い笑み浮かべた奴だな……」
そう男の容姿に感想を述べつつ、
――何で俺がこんな写真を持っているんだ?
そう思い、散々考えたが、軽い頭痛のせいなのか、何も浮かばなかった。